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□恥ずかしがり
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「へったくそ」
ゴールの隣に立っている雪村が呆れ顔で言う。確かにそうなんだけれども、そんなにはっきり言うことないじゃないか。
『しょうがないじゃん! 素人なんだから……』
サッカーボールを蹴るなんて初めてに近いんだぞ。大目に見て欲しい。
私は転がったボールを拾い上げて太ももの上で弾ませる。リフティングというやつだ。
『あ……』
ボールは弾むことなく太ももに当たった後に地面に落ちた。何でなんだろう、どうして弾まないんだろう。
「肉が付きすぎてて逆に弾まないんだろ」
『はぁ!? そんなに太ってないんだけど! 喧嘩売ってるの?』
失礼すぎだろ!まじ有り得ない、彼女に向かって何てこと言うんだ。その肉が付きすぎてる女と付き合ってるのは雪村なんですけどね。
心の中で悪態をついていると地面に転がってるボールを雪村が拾った。
「別にそうじゃねぇけど。…見てろよ 、へたくそ。リフティングはこうやんだよ』
雪村がリフティングを始めた。ボールはずっと彼の脚の上で綺麗にリズム良く弾んでいた。すごい、そう漏らすと雪村は話しながらリフティングを続ける。
「当たり前だろ。サッカー部だぞ、オレ」
第一、と雪村は続けた。
「お前が下手過ぎるだけだと思うけどな。 あんな股関節近くでリフティングする奴初めて見た」
ハハ、と雪村が言いながら笑う。
『ひどっ! そこまで笑う!? 私だってちゃんとやれば出来るよ』
多分、言うと雪村はなんだそれ、とまた笑った。あ、楽しそう。
その表情が見れたことに嬉しくなってこっちまで楽しくなる。
名前を呼ぶと雪村はこちらを向いた。リフティングは継続中。さすがサッカー部。
『パス練しよう!』
「はあ!?」
私の発言にずっと続いていたリフティングが止まり、ボールが地面へと落ちた。
「…お前パス出来んの?」
『出来る、よ……?』
リフティングも出来なかったのにか、雪村が疑いの眼差しでこちらを見た。上手くは出来ないけど、たぶん少しくらいは出来ると思う。たぶん。それから、溜め息をひとつ吐いてゆっくりパスをしてくれた。
真っ直ぐ正面へと転がってきたボールを私は右足でしっかりととめる。
それから雪村の位置を確認してそちらの方へと蹴る。あ、違うとこ行っちゃった。
「なぁー」
『なに?』
変な方向へと転がったけれど、それにも素早く対応してしっかりとボールを止めてくれる雪村。おぉ、速い。
「何でいきなりサッカーやり出した?」
『ん〜……』
だって、と私の返答がそこで詰まると雪村は不思議そうに私を見る。
『だってさ、サッカー出来るようになって少しでも雪村の練習相手になれたらなって…。か、彼女だし、なんか私も役に立てないかなぁと………』
恥ずかしいけど正直にそう話すと雪村の動きが止まり、真っ赤な顔を隠してその場にしゃがみこんでしまった。
『え? 何……? どうかしたの…』
も、もしかして理由があまりにもくだらなかったから笑ってるのだろうか……。私に練習相手が務まる訳ないって思ってる!?それは否定しないけど。
いつまでも顔を上げない雪村を覗き込もうとしたら急にばっと、顔が上がって驚いた。お?な、なんか…真っ赤になってますね…?
「………………。」
上目使いで私を睨み、顔をリンゴみたいに赤くした雪村がかわいくてニヤニヤしてしまう。
「……………ねーよ…」
『え?』
小声で聞こえなかったのでもう一回、と言うと雪村はヤケクソのように叫んだ。
「かわいいこと言ってんじゃねぇよ、バーカ!」
その言葉につぎは私が顔を赤くしてしゃがみこんだのだった。
あんな事言うなんて反則じゃん。
『……………………。』
バカヤロー、恥ずかしすぎる…。
そのまま5分間くらい黙ったまま2人でしゃがみこんで顔を隠していた。


やっと顔を上げると、雪村は何か言いたそうにしていて何、と問うと真顔で口を開いた。

「お前のそういうとこが、好きだ」

ありがとな、そう言ってまだほんのり赤い顔で二っと雪村が笑った。
その不意打ちの笑顔と言葉にどうしようもなくキュンとした私はどうすることも出来ず、雪村の胸で顔を隠して恥ずかしさを紛らせた。
私も雪村のそういうとこが好き。
小さく呟いた声がやけにグラウンドに響いた。




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