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□願い
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神童先輩の掛け声で今日の部活が終了した。私はサッカー部のマネージャーとして練習を終えた選手たちにドリンクやタオルを手渡していく。
『はい、狩屋。 お疲れ』
私は必ずドリンクとタオルを狩屋に渡すのだ。一応、片想い中である。手渡したドリンクを飲む狩屋に今日の練習の感想を言ってみる。
『最後のゲームでのディフェンス、あれはもう少し早めに出た方が良かったんじゃない?』
「何偉そうに言ってんだよ。あそこはあのタイミングがベストだろ」
『でも抜かれたじゃん』
「お前に何が分かるわけ?」
狩屋のムッとした顔をみてハッと我に返る。やってしまった。まただ。また何時もの喧嘩の始まり。
どうしても素直になれない私はつい余計な事を言ってしまう。そういう事を言いたいんじゃなかったのに。
周りの部員たちはまた始まった、と笑いながら私と狩屋の喧嘩を見ていた。でも今日はいつもと少し違う。狩屋がイライラしているのが分かった。そんな狩屋に乗せられるように私もいつもより喧嘩腰で話してしまった。
そんな私達を見かねて霧野先輩が止めてくれた。
「お前達いい加減止めたらどーだ? 」
その制止に私たちはお互いを睨んだまま黙る。
その沈黙の中、狩屋がこちらに向かってべっ、と舌を出してフンとそっぽを向いた。なっ!何なのアイツ!ムカつく、ムカつく…。言いすぎた私も悪いけどそこまでしなくても!


1人で帰り道をとぼとぼ歩く。
私だって喧嘩したくてしてるんじゃない。さっきだってホントは次は出来る、とか言いたかったのに…。自分の性格が嫌い。もう少しかわいくなりたい。
『……はぁ。』
「溜め息でかすぎ」
…はっ!? ん?なんでコイツ隣に居んの……!?
『え、なんで……』
「何でって、帰るとこ一緒だからだろ。」
そうだった。私と狩屋は同じお日さま園という施設に居る。同じ屋根の下、というと語弊を生むかもしれないけれどつまりそういう事だ。
だからといって何か進展があるとかは全くないけれど。
「お前が歩くの遅いから追いついただろ」
なんて言いながら私の歩くスピードに合わせてくれる。さっきまで喧嘩してたのに。なんだかんだ優しいんだ。
狩屋は私のこと、どう思ってるんだろ。小さいころから一緒だと恋愛対象外なのだろうか。
「あーあ。お前と帰ると晴矢さんにからかわれるんだよなぁ。部活一緒で帰るとこも一緒なんだから別におかしくないじゃんか」
溜め息混じりに狩屋が言う。私とそんな風にからかわれるのが嫌なのかな…。
『……私は別に構わないけど』
言った後に後悔した。何言ってんの、私! 今のは好きって言ってる様なもんじゃん!狩屋を見るとはぁ?みたいな顔をしていた。それはさすがに傷つく。
「何言ってんだよ、冗談だろ」
そう言って狩屋は笑った。やはり私は恋愛対象外のようだ。そっかぁ、なるほど。
その会話の後は、お日さま園までの道のりを私たちは一言も話すことなく歩いた。


『うわ、もうこんな時間』
学校の課題をしていたらもう10時を過ぎていた。眠いしそろそろ寝ようかな。
『そういえば、狩屋に明日の朝練のこと伝えなきゃ』


部屋に入ると、寝息が聞こえてきた。ベッドの側まで行き、そっと顔を覗く。
『コイツ、課題してんのかな?』
気持ち良さそうに寝る狩屋に少しだけムカッときて頬っぺたをつねってやる。すると狩屋の眉間に皺が寄った。私がどんだけあんたのこと好きだと思ってんの。何で気付かないわけ。ちょっとくらい意識してもいいでしょ。
『私、狩屋がここに来た時から好きなのに……ずっと、好きなのに』
ポタポタとベッドに出来たシミで自分が泣いていることに気づいた。
やばい人のベッド汚しちゃう。早く戻らないと。
『もうっ、狩屋のアホ… !』
半ばヤケクソで頬にそっと口付けて部屋を出た。

………あ、朝練のこと忘れてた。まぁ、いいか、明日の朝伝えれば。しかし我ながらバカなことをした。あんなことしたら顔合わせにくいのに。既に朝になって欲しくないし。
そして、部屋に戻ってきてから散々泣いたから目も朝になればきっと腫れるだろう。感動小説を読んだとかで誤魔化すしかない。

狩屋に少しだけでも想いが伝わってますように、そう願いを込めて瞼を閉じた。


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