short

□高さなんて
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『倉間せんぱーい、頑張ってくださーい!』
そんな私の声がグラウンドに響く。私は今日も練習する倉間先輩に声をかけていた。
そんな私の声援が聞こえたのか、先輩はこちらの方を見て軽く笑ってくれた。うん、今日も格好いい。


一旦、練習も終わり休憩に入る。私は真っ先に倉間先輩の元へタオルとドリンクを持って向かった。どうぞ、と渡すとサンキュとお礼を言ってドリンクを受け取る倉間先輩。ドリンクを飲む時に目が合った。
『何ですか?』
「お前さ、もう少し身長低くならねぇ?」
オレの方が先輩なのに見下ろされるのって気分良くないと、口を尖らせる。
確かに先輩を見下ろすのは失礼な事だよね。ただ、こればっかりはどうにも出来ない。
『……でも先輩、告白の時にそれでもいいって言ったじゃないですか』
「言ったよ。確かに関係ねぇけど………オレが剣城みたいに背が高かったら……」
そう言って先輩が黙る。沈黙の間にほのかに頬が赤くなっていくのが分かる。
『…………………』
「お前を包み込めるのに」
って時々思うんだよ、と尻すぼみになりながら顔を赤くした倉間先輩。
その言葉が嬉しくて嬉しくて私がやっと言えたのは先輩恥ずかしいです、だった。色気がなさすぎるぞ私。
「ウルセェ!自分でも思ったわ!!」
ますます顔を赤くする倉間先輩が可愛くて笑っていたら頭を軽く叩かれた。背伸びをしないと私の頭に届かないところも可愛いなぁ。
私はベンチに腰を降ろして先輩を見上げた。頭にハテナを浮べて先輩が見つめ返す。
『倉間先輩、私、今の先輩も大好きですよ?…それに、私がこうやって屈めば大丈夫です。ほら!』
腕を広げて笑いかけると私の視界が真っ暗になった。そしてすぐ先輩のにおいと汗のにおいと温かな体温で自分が抱きしめられたという事に気づく。
『!?』
ま、まさか本当に抱き締めてくれるとは思わなかった…。
「ありがとな!」
先輩がそう言って固まっている私の前髪をかき上げて額にそっとキスを落とした。
『せ、先輩!? こ、ここグラウンドですけど…!?』
額を押さえて慌てていると倉間先輩は笑いながら何事もなかったかのように練習へと戻って行った。逃げるなんて…ずるい!


この後、一部始終を見ていた皆からからかわれたのは言うまでもない。



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