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□赤色ピアス
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※高校生設定

「ねえ、きどーくん」
甘ったるい声でクラスの女が鬼道に話しかける。あの子、普段はあんな声じゃないのに。
楽しそうに会話する2人。女の方は鬼道への好意があからさまだ。見ていて気持ちのいいものではない。当たり前だ、鬼道の彼女は私。
嫉妬と同時に哀しさもこみ上げる。私のいるこの教室で、私の前で他の子と仲良くしないで…。
無性にイライラして自分の太ももに爪を立てた。痛い、痛い。でも、足りない。こんなんじゃ治まらない。もっと。


体調が悪いからと、先生に言って学校を早退して家に帰る。
クラスを出る時に鬼道がこちらを見ていたが無視して歩みを進めた。
私を見るくらいなら近くに来て大丈夫かの言葉をかけてもいいんじゃないか、なんて不満を本人に言う勇気はない。だって、嫌われたら私はたぶん生きていけないから。
大袈裟かもしれないけど私にとってそれほど鬼道が大切なんだ。愛してるんだ。だから行き過ぎた被害妄想をして自分を傷つける。そんな事の繰り返し。
自分でもやめなきゃだめだとは思っているけれどネガティブな方にばかり考えてしまう。面倒くさい女だ。


パチン、部屋に乾いた音が響く。
『 っ……!』
じんじんと右の耳たぶが熱い。痛い。何回も穴は開けているのに全くこの感覚に慣れない。痛いけど、この痛さが一番ちょうどいい。
穴を開けて慣れるまでは嫌なことを忘れられるのだ。
クラスの女への嫌悪感も、自分への苛立ちも、鬼道に対しての想いも。
全部自分の被害妄想だって分かってる。それでも自分で自分を傷つけることを止められない。
そして増えるピアスの数。今現在私の左側には3つ、右側にも3つ。穴が塞がれば、また開けて。
ピアスの色は鬼道の目の色。綺麗な赤。鬼道のことで作った傷を鬼道の色で埋める。
最初に赤色のピアスをして彼に見せた時は恥ずかしいが嬉しいと、そのピアスに優しくキスをしてくれた。
それからピアスが増えると私の頭を撫でた後に必ず、そのピアスへとキスを落とす。ゆっくりと腫れ物に触るかの様に。
鬼道は優しすぎる。気持ち悪いとか、重いなんてことを一回も言われたことがない。一回くらい私のことを突き放してもいいのに。突き放して欲しいのに。そしたら、私もこんなに穴を開けなくて済むかもしれない。


重い瞼を開ける。どうやら寝てしまっていたようだ。
時計を見るともう6時を回っていた。だいぶ寝ていたのか。ベッドを降りて机の上にある鏡で今日開けた穴を確認して他の穴同様の赤いピアスをつける。
ピンポーン。
お母さんかな。
チャイムが鳴ったので玄関へ行きカギを開けた。
『おかえり、おかあさ……………』
パタン。
扉を閉めてカギを掛けようとしたがすぐに再び扉が開いた。開いた扉の前に立っている人物を見る。
『……何、鬼道』
「先生に頼まれたプリントを届けに来た。」
その言葉を私に会う為じゃない、そう自分勝手に解釈してしまう。我ながら気持ち悪い。
「それと、お前の顔が見たかった」
本心なのか私の心を読んだのか分からないが鬼道は私が欲しかった言葉を掛けてくれた。
その言葉にひどく安心したのと同時にまたそんなに優しくするのかと、なんだか泣きそうになった。
バカ、呟くと鼻で笑われ、先程つけたばかりピアスに触れる。
「また開けたのか」
似合ってるでしょ。
「痛くないのか?」
痛い、痛いに決まっている。
「オレのせいか?」
どうだろうね。
「誰のせいだ?誰が原因でお前は自分を傷つけているんだ?」
気づいてるくせに。
「すまない」
あぁ、やっぱり優しくするんだね。
鬼道の腕が私をそっと包んだ。
私の中は鬼道のことでいっぱいなんだよ。
「そうか。オレもお前のことでいっぱいだ」
バカ。そうじゃないよ。突き放して、私に重いって言って。鬼道がそうやって優しくするから繰り返すんでしょ。
『鬼道、』
「何だ?」
『好き。好き好き。大好き、』
愛してる。
『引いてもいいよ。気持ち悪いって遠ざかってもいい』
そうでもされないと私たぶんダメな方へダメな方へと行っちゃう。
そんな私の言葉にさえ鬼道は優しく微笑んで赤色のピアスにそっとキスを落とした。
「何故オレがお前のピアスにキスをするか分かるか?」
『…………』
「分からなくてもいい」
『何それ。なら聞かないでよ』


そうする事によってお前の傷が埋まればと。


それは 逆効果。



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