short

□特別
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今日の練習も終わり、皆部室からちらほらと帰っていく。一年生はきつい練習の後でも元気よく挨拶をして部室を出ていった。
今部室に残っているのは私と南沢、倉間たち二年生だけだ。
よし、帰ろう。 部室を出ようとした時、不意に腕を掴まれた。
『!?』
「おい、」
声のした方に振り返れば、私の腕を掴む南沢がいた。
「もう少し待っとけ」
『 えー……早く帰りたい…』
「いいから待ってろ」
強引にそう言われて仕方なく待つことにした。
南沢は私の幼なじみだ。そして、私はアイツが好きだ。あっちも私のことを好いているらしい。らしい、というのは前に倉間と話しているのを聞いてしまったからだ。もちろん不可抗力。
きっと南沢も私の気持ちを知っている。でも、恋人同士とかそんな関係じゃない。
……それでもまえに2人きりになった時になんかそういう雰囲気になったのでキスは、した。軽く触れる程度の。
あの時はどうしてそんな雰囲気になったのか覚えていない。いつもみたいな感じで談笑してたはずだったんだけど。
「ナマエ」
『ん。あれ?もう皆帰ったの?』
「ああ。つか、お前ずっと同じとこにいてなんで気づかないんだよ」
南沢が呆れた顔で言う。
ボーっとしてた、そう言えば頭をコツンと小突かれた。
「お前ってよくぼけっとしてるよな。そのうち巨大な鳥に連れてかれるぞ」
き、巨大な鳥って…………。こいつ意外とアホなんだろうか。ボケのつもりで言ったのかな…だとしたらスベってるぞ。
『んなことあるわけないでしょ、エロ沢』
「誰がエロ沢だ」
べしっと頭を叩かれる。これが地味に痛い。
『痛い……。あ、そういえば』
「何だよ?」


私が屋上でひとりで(友達が居ないとかでは無い断じて違う)昼食をとっていると南沢のファンだと言う子達に囲まれた。
「アンタあんまり調子に乗ってんじゃないわよ! 幼なじみが特別だと思ってるわけ?」
「特別っていうのは恋人のことを言うんだから!」
「見た目平凡のくせに生意気!」
第一幼なじみなんか恋愛対象外よと、そんな風なことを一方的に捲し立てて彼女たちは去っていった。


「ふーん」
『ふーん、じゃないっつーの!』
こっちは普通にお前に接してるだけであんな事言われて迷惑してるってのに。
キッと睨むと南沢はいつもの飄々とした態度で言う。
「じゃあなればいいだろ、そいつらの言う特別に。」
は?
『え、え?』
「だから、オレとお前が付き合えばいいんだろ?」
え、そうなの………? そう、なのかな………?
「嫌なのかよ?」
嫌じゃない。嫌な訳がない。前からずっと好きだった人とお付き合いが出来る。
しばらく1人で考え込んでいると、どうなんだよと急かされた。
『…いやでも…私で、いいのかな…』
そうこぼすと私は南沢の腕の中にすっぽりおさまった。
「お前がいいんだよ……。つか、んなこといちいち言わせんな」
『フヘヘ』
あの南沢がそんな事を言うなんて。嬉しいな。
「なにニヤケてんの?」
『やっと言ってくれたなと思って。大分待ったよ、ヘタレくん』
「ヘタレじゃねぇ。機会を伺ってただけだ」
笑っていると唇に啄むキスをくれた。
幸せだなぁ、思わずそう零すと南沢は目を細めてフッと笑った



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