tns短編

□俺に近寄らないで。
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いってきます、と言って家を出ると、必ず出会う。幼い頃から隣に住んでいる、幼馴染の女の子。





「おはよう長太郎っ」



「名前…おはよう」



「あれ?元気ないの?」



「そんなことないよ」



「本当?長太郎はすぐに無理しちゃうから心配だなー…」





毎朝、俺の大好きな笑顔で挨拶。少しでもトーンの低い返事をすると心配そうに俺を見つめる。幼い頃から変わらない君。





「大丈夫だよ。ほら、早く行かないと、待たせちゃうんじゃない?」



「あ、本当だ!じゃあ、またねっ!」





変わったのは、登校する間、俺の隣に君がいなくて、君の隣にいるのが俺じゃなくなったこと。そんなことを考えながら切なくなってしまう。



行かないで。俺と一緒に行こうよ。



なんて、言ったら…君は俺の隣にいてくれるんだろうか。幼い頃から君の隣は俺だけのものだったはずなのに。俺はずっと君だけを見てきたのに。小さい頃、俺と結婚するって言ってたこと、君は覚えてるのかな?……覚えてるはず、ないよね。



フッと自嘲気味に笑い、さて学校に行くか、と足を踏み出すと、何故か隣に人の気配。





「ね、長太郎…やっぱり元気ないよ?」



「名前、なんで…」



「なんかずっと立ち止まってるし、辛そうな顔してるから、亮先輩に電話して先に行ってもらった。」



「…どうして」



「なんで、どうして、って…心配してるの!当たり前でしょ?幼馴染なんだから」





にっこりと笑って俺を見る名前。今日は休む?それともゆっくり学校行く?と尋ねてくる君が、俺のものになる日は来ない。だって君にとって俺は“幼馴染”で、一生“男”になることはないんだから。それに……、





「別に具合悪くなんかないよ。俺の心配なんかより、宍戸さんと…彼氏と仲良く登校すればよかったのに。」



「っ、う…うるさいな、///」





君は宍戸さんのものなんだから。絶対に俺のものになる日は来ないんだ。





「ま、たまにはいいでしょ?ずっと一緒に登校してたんだし。私は長太郎といるの楽しいよ?長太郎は違うの?」





そう言いながら少し拗ねたような表情で俺を見上げる君。そんな可愛い顔で俺を見ないで。君のことが好きだという気持ちが大きくなって、隠せなくなってしまうから。





だから、もう……




俺に近寄らないで。




(あ、忘れ物した。名前、やっぱり先に行ってくれる?)

(えー、……わかった。早く追いかけて来てね!)

(………はぁ。人の気も知らないで。)

(もしもし、宍戸さん?鳳です。もう学校に向かってますか?名前を先に行かせたんで、すみませんが戻ってきて下さい、今不機嫌な顔してそっちに向かってると思うんで。)






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