tns短編

□少女Aがお送りします。
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「長太郎!行くぞ!!」

「はい!宍戸さん!!」



後ろにハートマークでもつけているかのように言い放ち、宍戸先輩に着いて行く犬っころのようなでかい奴。


彼の名は、鳳長太郎。我が氷帝学園のキングだと主張する跡部景吾率いる男子テニス部の一員で、2年生にしてレギュラーを勝ち取った、えげつないサーブの持ち主である。



物腰は柔らかく、紳士的で王子様のような彼を好いている女子は多い。(幅広いファン層を持っている)

そんな彼も普通の中学2年生。






「あ、名前ちゃん!」

「ん?おー長太郎くん、部活中?」





好きな女の子の1人や2人はいるようです。(1人しかいないからっ!←鳳)



宍戸先輩の後ろを着いて歩いていた鳳が声をかけたのは、彼と同じクラスの苗字名前。

彼女はどこにでもいるような、平凡な女の子で、数少ない“テニス部に興味のない”女生徒だ。





「お?なんだお前ら知り合いか?」

「え?」

「んー、そういえば亮もテニス部だったっけ?」

「おう岳人とジローもだけどな。何回も言わせんなよ…」




仲良さげに話し始めた2人に、わけがわからないと目をぱちくりとさせる鳳。




「長太郎?どうしたんだよ?」

「いや…お2人は、」

「あー知らなかった?私と亮は従兄妹なんだよー」

「ついでに岳人とジローとは幼馴染」

「い、いとこ!?幼馴染!?」




へー、あの2人って従兄妹だったんだ。それに向日先輩と芥川先輩もか…、そりゃ幼い頃からあの3人に囲まれてたらテニス部くらいで騒ぐわけないわね。






「お前らは?」

「クラスが一緒で、席が隣同士なの」

「へー…、」

「ん?なに??」




宍戸先輩に関係をきかれ、簡潔に答えた彼女を、何故か宍戸先輩がじっと見つめる。それに気付いた彼女は不思議そうに宍戸先輩を見上げる。(あの…俺、空気なんだけど;←鳳)





「名前、やっぱお前小さいな」

「…はぁ?」

「長太郎と並ぶと余計にだな」

「そりゃそうでしょ、長太郎くん身長高いもの」



機嫌が悪そうに顰められた眉を隠そうともせず宍戸先輩を睨む彼女の頭を、宍戸先輩が“悪い悪い”と笑いながら撫でる。

その所為で彼女の頭はぐしゃぐしゃになるのだけど、彼女はそんなこと気にしていないように彼の手を受け入れ、その上気持ちよさそうに目を細めている。





「……、」




その光景を見ながら、少し面白くなさそうな顔をするのが鳳だ。空気のように扱われた上、嫉妬しているんだろう。………どっちに妬いてるんだか。




「あ、ごめんね長太郎くん、部活の邪魔しちゃって。」

「え、あ、いや…」




やっと鳳がいたことを思い出したのか、鳳にむかってほほ笑む彼女。鳳はその笑みをみて顔をほんのり赤く染めている。


そして彼女は背伸びをし、鳳の耳元に近付いて囁いたのだ。





「せっかく憧れの宍戸さんと一緒にいるんだもんね、ごめんね気が利かなくて」





はっきりと聞こえたわけではないが、彼女の口がそう動いたように見えたのは、私の勘違いではないだろう。

だって鳳が、驚いて顔を引き攣らせているもの。






「え、名前ちゃん…?」

「へへっ、私そういうの偏見ないし、亮のことなら何でも知ってるからいつでも言ってね」



彼女は鳳に向けてパチンとウインクをかまして、宍戸先輩に挨拶をすると、笑顔でその場を立ち去った。

一方鳳は、顔を赤くし口をパクパクとさせ、わなわなと震えている。





「……どうしたんだ、長太郎?」

「ち、」

「…ち?」

「違うんだ、名前ちゃん!」




焦ったような鳳の声は、もう見えない彼女の後ろ姿を追ったが届かず地に落ちた。

大きな体を小さくし、しくしくと泣き始める鳳を、おろおろしながら慰める宍戸先輩。



彼女は、嫉妬している鳳の様子をみて私が“どちらに妬いているんだか”と感じたのと同じように、『せっかく宍戸さんといたのに邪魔しないでよ』みたいなことを鳳が考えているんだと思ったんだろうねー。

本当は宍戸先輩に対して『俺まだ撫でたことないのに…、2人仲が良いんだ…』みたいなことを考えていたんだろうに…。


鳳、あわれなり。





以上、少女Aがお送りしました。



(宍戸さーん!俺は名前ちゃんが好きなんですー!)
(は?お前みたいな頼りない奴に名前は渡さねぇぞ!)
(え!?そんなー…宍戸さーん(泣))

(……鳳、あわれなり。)





  

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