tns短編
□スキンシップも必要です
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「……はぁ」
昼休みになった。
弁当は屋上で、レギュラーの先輩たちと一緒に食べている。
いつもならやっと弁当が食えるってのと、先輩たちと話せるのでわくわくしながら屋上に向かうんだけど。
「行きたくねぇ、な…」
朝クラスメートから聞いたことの所為で、丸井先輩に会いたくない。
「え?用事、っすか」
「うん、だから今日はブン太はいないよ」
屋上に着くと、そこに丸井先輩の姿はなく、疑問に思って尋ねてみたら、用事で一緒に食べられないらしい。
……用事、ねぇ。
「そういえば、赤也。聞いたか?」
「何をっすか?」
「丸井と名前が付き合っちょるって噂」
「ぶっ、」
仁王先輩の言葉に、思わず口の中のものを噴きだしてしまった。
汚いとか言われたけど、幸村部長が拭いてくれた。
「…それ、本当なんすか」
「さあ?俺は聞いとらんが。ジャッカル聞いとるか?」
「え、いや…俺も聞いてないなぁ」
他の先輩も、付き合っているとは聞いていないらしい。(副部長は、男女交際なんてたるんどる!とか言ってた)
「俺のクラスの奴が、昨日丸井先輩と名前が一緒に帰ってて、キスしてたの見たって言ってたんすけど」
「キス、ねぇ……」
俺の言葉に、仁王先輩が何か考えるような顔をする。
昼食の菓子パンを握ったままそんな話をしていると、いつの間にか後ろにいた人物に、俺の昼食を取り上げられた。
「お、美味いじゃん」
「は?…ちょ、丸井先輩!」
俺の昼食をとったのは丸井先輩だった。
丸井先輩は、美味しそうに俺のパンを頬張る。
話題の中心人物だった先輩の登場に、少し気まずい空気が流れる。
「…なに?俺の話でもしてた?」
「え、いや…」
「…まぁ、俺と名前の噂の真相探りだろぃ?」
丸井先輩の言葉に、俺は思わずピシリと固まってしまった。
そんな俺をみて、丸井先輩は可笑しそうに笑う。
「ちょ、笑ってないで教えてくださいよ」
「なにを?」
「何を、って…本当に付き合ってるんですか?」
俺の質問に、丸井先輩は、内緒、と言って笑った。
俺が、うじうじしてたから、名前は丸井先輩に乗り換えたのか。
でもあの日…、明日から一緒に帰れないと言ったあの日。
確かに、アイツは俺のことが好きだと言った。(テニスより、と前置きがあったが)
考えてみれば、アイツは俺にたくさん好きだと言ってくれたし、愛情表現だってしてくれた。(俺にとってはセクハラでしかなかったけど)
俺は名前のことが好きだけど、俺がただそう思っているだけで、きっとアイツは知らない。
そして、俺が今更好きだとか言えなくて、本当は両想いで、俺だって名前に触れたくて仕方ないとか、そんなことアイツは知らないんだ。
……いや、両想いだとか、そう思っていたのも俺だけなのかもしれない。
アイツも、本当はもう俺のこと好きじゃないけど、今更言いにくかっただけで、違う人に好意を寄せているのかもしれない。(丸井先輩とか)
もう……、遅いのか。
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