gntm短編

□覆らないと知っていながら
1ページ/1ページ



(動乱編風味)(原作知識有トリップ主)










「お前…知ってたんだろ」





 つい先程までバカ騒ぎしていたのが嘘のように静まった屯所。自室に戻ろうとした俺が見つけたのは、縁側に腰掛け月を仰ぎ見る桜子だった。



 コイツはある日突然俺たちの目の前に落ちてきた。空から降ってくる女に天人かと思い警戒する俺たちだったが、コイツはただの人間で…しかし何故か俺たちのことを知っているようだった。





『……何のこと、ですか』





 か細い声を出す桜子の顔は悲痛に歪んでいる。コイツのこんな顔を見たのは今回が初めてではない。何か大きな事件が起こり、俺たち真選組や…いつの間にか仲良くなっていた万事屋が怪我をしているのを見るたび、こんな顔をするんだ。







『土方さん!その刀はダメです!』

「あぁ?なんでだ、お前刀のことなんかわかんねぇだろ」

『駄目!絶対にダメなの!土方さんそれはなして!』



「総悟と巡察行ってくる、お前は留守番な」

『……沖田さんとファミレスには入らないで下さいね、まっすぐ帰ってきて下さいね!』

「はぁ?お前最近おかしいぞ?」



『近藤さん!土方さんは悪くないの!これは』

「桜子!………いい。」

『やだ!土方さん行かないで!やだぁあ!!』





 コイツは何か起こる前に、必死で俺を引き留めた。それに俺は耳を傾けず、気付いたらもう真選組を護るはずの俺はそこにいられなくなった。危険なそこに桜子を置いて、俺は逃げた。







「お前はこうなることを知ってて…俺たちを護ろうとしてたんだろ?」



『……だったら何です?』



「ありがとう」



『っ、!?』





 照れを隠しながらの精一杯の俺の言葉に、桜子は涙でいっぱいの目で俺を睨みあげた。





『そんな言葉いらない!結局私は何もまもれなかった!私は…何も出来なかった!』



「……んな事ねぇよ、」



『あるの!私はっ……私は、土方さんがあの刀を持って苦しむことを知ってた!山崎さんが死にそうな怪我をすることもっ、沖田さんが重傷を負うこともっ!伊東さんは踊らされててっ死んじゃうことも全部全部知ってた!!』



「……桜子、」





 涙を耐えるように眉間にぐと皺を寄せ、行き場のない思いをどうすることも出来ず頭を振り乱し、激しく悲痛な声をあげる桜子。驚いた俺が彼女の名を呟くと、ハッとし我に返った桜子は全身の力を抜きごろりとその場に寝転がる。







『…土方さん。私ね…全部知ってるからこそ、この動乱を起こさせたくなかったんだよ。私を助けてくれた、この温かい場所にいるあの人たちを……たくさんたくさん傷つけ死なせてしまうこの動乱だけは、起きないでほしかったんだ。』





 寝転がったまま月を眺め、ぽつりぽつりと語る桜子。俺は何も言わずただただその顔を見下ろす。







『土方さんが屯所を出てから、必死に伊東さんを説得したり、山崎さんを1人にしないようずっとひっついてたり、沖田さんの動きから目を離さずにいたり……。いろいろ試したけど、結局私は何も出来ず…、山崎さんも沖田さんもいつの間にか私の傍から離れ、気付いた時には重傷。伊東さんは計画を実行し、万事屋のみんなも巻き込んで大勢が傷を負い、たくさんの人が死んだ。』





 静かに涙を流す桜子の横に腰をおろし、そっと頭を撫でてやる。知っているからこそ言えること言えないこと、出来ること出来ないことがある。コイツはコイツなりに一生懸命考えて、精一杯ここを…俺たちを護ろうとしてくれてた。……それを、その合図を見逃したのは俺たちだ。さっきは子供のように取り乱したくせに、今はただただ声もあげず涙を流すコイツを……ここまで傷つけたのは俺たちだ。





『私がもっといっぱい考えて…もっと賢く動いてたら……死ななかった人がいたかもしれないのに…。私がもっとちゃんとしてたらっ……土方さんはあんな苦しい思いせずにすんだのに』





 急に出てきた自分の名前に、思わず桜子の顔を見ると、桜子は静かに涙を流したまま俺をじっと見つめていた。その瞳が、『貴方を救いたかったのに』と訴えている気がした。俺はその瞳がたまらなく嬉しく、愛おしくて………。





『…っ、…土方さん、』



 体を屈め、涙の零れる瞼や桜子の唇に優しくキスをおとした。驚いたのか桜子は数回瞬きをすると目を泳がせた。そんな彼女を抱き上げ、優しく抱きしめる。







「大丈夫だ、心配するな……もう十分助けられてる…。お前が知り合いの医者かき集めて現場にかけつけてくれたおかげで何人の命が助かったと思ってるんだ。お前の存在に、俺は…俺たちは…心底救われてる。みんな感謝してるんだ、下ばかり向いてないで…そういう奴の顔をみてやれ」





 俺の言葉に今度は子供のように俺にしがみついて泣き声をあげる桜子を、強く…強く抱きしめる。



 お前があの時かけつけてなかったら、屯所に帰るまでに何人の隊士が命をおとしただろう。聞けば山崎をいち早く発見し、病院に運んだのも桜子だ。救急箱を手にかけまわる桜子に、何人の心が救われたと思っている。





 結構な時間泣き続けた桜子は、泣きつかれたのか俺の腕の中で寝息を立て始めた。月明かりに照らされた桜子の寝顔はまだまだ幼く、赤くなってしまった目じりが痛々しい。







 きっとコイツは…これからも、何か自分の知る大きな事件が起こる時は、今回のように必死に考えもがくのだろう。その結末が………





 覆らないと知っていながら












[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ