gntm短編
□“ごっこ”遊びはもう終わり
1ページ/1ページ
「土方さん、まだお休みになられないんですか?」
「……桜子か」
月明かりだけで照らされる部屋。
ボーっと書類に目を通しているとその部屋の襖があき、入ってきたのは1カ月程前に副長補佐として入隊した桜子。部屋の主は勿論副長の土方だ。
「あまりご無理をなさらないように」
「俺は大丈夫だ」
「そう仰ったのに次の日に熱を出して寝込まれたのは誰です?」
「………、」
不貞腐れたような表情をする土方を見、口元に手をやりクスクスと笑う桜子。
そんな桜子の様子を見ながら、眉間に皺を寄せ手元の資料に視線を戻す土方。
「……土方さん?」
「お前は…俺のことが好きか?」
「何故、そのような当たり前のことをお聞きに、?」
「………そうか、」
土方の問いに不思議そうな顔をした桜子を見て、土方は眉間の皺を深くした。そんな彼を見て、桜子はそっと土方に歩み寄り、ふわりと彼を抱き締める。
「何があったのか存じませんが、私はいつでも貴方の」
貴方のお傍にいますよ、
そう言おうとした桜子の口は、土方の唇によって強引に塞がれた。
幸せそうな表情をし、その口づけを受け入れていた桜子は次の瞬間に体を硬直させた。
「土方さん…、これは一体」
「恋人“ごっこ”はもう終いだ、桜子」
そう言って彼は、今まで目にしていた書類を彼女に突き出し、片手には鞘から抜かれた刀。彼女はその書類を見ると、その目を絶望の一色に染めた。
「御用改めだ。神妙にお縄につけ」
土方のその言葉を聞くと、彼女は懐に隠していたスタンガンで土方を一瞬で気絶させた。
そんな土方の近くに落ちていたのは例の書類。
それは監察からの報告書……。その書類にあったのは“鬼兵隊”と“高杉桜子”の文字。
桜子はその書類を拾うと、傍にあった土方のライターで火をつけ燃やし、そっと闇夜に姿を消した。
“ごっこ”遊びはもう終わり
消え去る彼女の表情が悲痛に歪んでいたことは、
きっと彼らを見守っていた月しか知らない……――。
、