企画小説

□絵筆とラケット
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淡いクリーム色を基調をした部屋。


きちんと整理された本棚には、ぎっしりと本が詰まっている。そこにマンガ本は一冊も無く、あるのは風景や動物といった自然を感じる写真集。



その横の棚には、ぎっしりと並んだ画材。




それらと、勉強する為の机と、寝る為のベッド以外にあまり物のない部屋の真ん中に、異様な程に存在感を放つキャンバス。



そして鼻をつく絵の具の匂い。








『……ん、萩せんぱい?』

「ああ、起こしちゃった?ごめんね」

『ううん』





ベッドに横になり、寝息をたてていた彼女はふわりと微笑んで、来てくれたの?と尋ねた。

当たり前でしょ、と言うと嬉しそうに一層笑みを深めるので、こちらも釣られて頬が緩む。





身体を起こす彼女を支え、買ってきた5つのゼリーを見せると、ごめんね、と言って苦笑した。




何故5つ買ってきたかというと、それは……。






―――バタバタっ





あ、足音が聞こえるね。もうすぐわかるよ。






「なまえ!」

『……ジロ兄、』

「よ、なまえ。」

「体調良くなったか?」

『…がっくんと亮くんまで』





俺が何故ゼリーを5つ買ってきたか。それは、俺が来てじきにこの3人で部屋に飛び込んでくるのをわかっていたからね。









なまえは俺のチームメイト芥川慈郎の妹で、向日と宍戸の幼馴染。そして、俺の彼女。


彼女は生まれつき体が弱くて、今日のように学校を休むことが多い。こう言ったら聞こえが悪いかもしれないけど、そのおかげで俺たちが出会えたと言っても過言じゃないから、少しだけ感謝してるんだけどね。






放課後、部活に行く前に彼女が所属する美術部の部室を覗いても彼女がいなくて、ジローに訊いてみると、熱が出て休んだということだったので、部活が終わってすぐにお見舞いを持ってやって来たわけなんだけど。



ジロー達のなまえへの可愛がり様は、すごいからね。いくら俺が帰ってからレギュラーのミーティングがあったと言え、すぐに家に帰ってくると思ってたし。みんなで食べる為にゼリーを5つ買ってきたんだ。








「滝、来てたのか」

「当たり前でしょ」




俺の言葉に擽ったそうに笑うなまえと、拗ねた顔をしているジロー。向日はため息をひとつ吐いて、宍戸は苦笑した。





それからは、俺が買ってきたゼリーをみんなで食べて、主にジローと向日が今日学校で起きた楽しかった出来事を話してなまえを笑わせていた。








「さ、そろそろ俺らは帰ろうぜ」

「そうだな」

「じゃあ俺も、なまえのかわりに店番だC〜」




彼らなりに気を利かせているのか、向日の一言に釣られ、3人が立ち上がり、なまえの頭を順番に撫でて部屋を出て行った。



病人に手出したら、うち立入禁止にするからね〜?という釘を忘れず差して。














『…ごめんね、萩せんぱい』

「どうして?」

『せっかく来てくれたのにジロ兄達が』

「構わないよ、なまえの楽しそうな顔が見れたからね」




申し訳なさそうに顔を歪めていた彼女だったけど、俺の言葉にホッと息を吐いて微笑んだ。







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