企画小説

□6年後、船上にて。
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―――――6年前の今日、この船で初めてあの人と出会った。

まさかまさか船が座礁してサバイバル生活を強いられることになるなんて想像もしていなかった。



でも、私はあの嵐に感謝している。


だって、偶然でも、彼と会わせてくれたのだから………。



――――――――――――――ーーーーー


「お嬢ちゃん?どうしたんや」


侑士さんに呼ばれハッとする。


『なんでもないよ。6年前のことを思い出してただけ。』


「6年前?………あぁ、もうそんなに経つんか。」



思い出すかのように侑士さんは言った。
あの頃に比べて、随分とかっこよくなったなぁ。

6年前も中学生とは思えないくらい大人っぽくて(顔も、声も、性格も言動も何もかも)
大人の色気ダダ漏れだったけど……。


最近はもっと、、、


「ん?どうしたん?お嬢ちゃん。俺の顔になんかついとるか?」

『え?あ……、何も』


私いつの間にか侑士さんを凝視しちゃってたんだ…。

は、恥ずかしい……。


「なんや、俺の顔に見とれとったんか?」



いきなり図星を突かれてどもってしまった私を見て侑士さんはにやりと口角をあげて


「ホンマにかわええなぁ、お嬢ちゃんは」


と言って私を抱きしめた。




ホントにいつも強引で、びっくりするほどサラリと私に愛を囁いてくる。



そういう侑士さんは大好きなんだけど……。



最近は不満があるんだ。











『ねぇ、侑士さん。』


「ん?なんや?」



『……、私のこといつまでお嬢ちゃんって呼ぶんですか?』


侑士さんは出会ってからこれまでずっと私のことをお嬢ちゃんと呼んでくるんだ。

たまにちゃんとなまえ、と呼んでくれるときもあるんだけど、それはほんの数回。すごく稀なことなのだ。


私だってもう20になるんだ。お嬢ちゃんて呼ばれる歳じゃない。

はっきりいって、は、恥ずかしいし、なまえ、って名前で呼んで欲しい。。




『そりゃ、侑士さんの方が年上ですが……、たった一つ違うだけじゃないですか。』


そう言うと、侑士さんは黙ってうつむいた。


『あ、の……、侑士さん?』


うつむいている侑士さんを覗き込む。
(私は身長が低い方なので簡単にのぞき込める。)





『え?あの、侑士さん?』


顔を赤くして眉を寄せている侑士さんがいた。


いつものポーカーフェイスが見当たらず、少し怖い。



びっくりしてドギマギしていると


「なまえっ!!」


『は、はいっ!』


急に顔を上げて大きな声で名前を呼ばれたので私も反射的に大きな声で返事をしてしまった。



な、何?
侑士さんは私の名前を呼んだ。
しかし、そのあとは無言で私と目を合わせているだけ。


『あの、侑士さん?』


恐る恐る名前を呼んでみると、


「あんな、大事な話があんねん。……聞いてくれるか?」


『は、はい』


真剣な目に見つめられて、私はそれしか言えなかった。


なんだろう。










「あんな、……俺と、結婚してくれへん?」






『……え?』



今なんて?

結婚?結婚ってあれだよね?

あの、籍入れたり式あげたりするあれ?


『……、ええええええええええええ!?!?!?!?!?』


「なまえ?」


この船が防音設備してあってよかったよ、って今はそれどころじゃなくって、


なんでこんな話に?


今さっきしてた話、は……。


え?名前呼びしてくださいって言っただけ。


どうしてそうなった?


『すみません、混乱しててっっ!!!』


「ははっ、そうやろなぁ、急にこんなこと言われてもなぁ。


名前呼びの話が出てプロポーズするええチャンスやと思ってなぁ?


…でも、ずっと前から考えとったんや。

今は父さんとこで助手として働かせてもらっとるだけやけど、すぐに自立してなまえを養えるようになったる。

そやからなまえも、俺のこと支えてくれへん?」



正直言って結婚なんかまだ考えてなかった。でも、侑士さんの気持ちは痛いほど伝わってきて、



『はい。不束者ですがよろしくお願いします。』



私も、彼を支えたいと思った。


「なまえっ!!ホンマか?」


『はい、私も侑士さんの力になりたいです。』


「よっしゃああ!!ホンマ嬉しいわ、ありがと」


初めて見る侑士さんのこんな笑顔に私も嬉しくなった。



「じゃあ、なまえ。手、出して。」



そう言われて手を出すと、侑士さんはポケットから指輪を取り出して

私の左手の薬指にはめた。





「その指輪は俺からの誕生日プレゼントや。

もらってくれるか?」



『はいっ!!』




そういうと侑士さんは私を抱きしめて


「Happy birthday、なまえ。
生まれてきてくれてありがとな……。









世界一幸せにしたるから」











なまえちゃんHappy birthday!!!

(ちょうどよく窓の外で打ち上がった花火は)(まるで私たちを祝福してるようだった)









   
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