tns短編
□好きだ、なんて
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「景吾!」
倒れる間際、アイツの声が聞こえた気がした。
「立ちなさいよ、景吾!」
何も考えられないはずなのに、アイツの声が頭に響いた気がした。
「…ゲームセット!ウォンバイ越前、7−6!」
好きだ、なんて
「…全国大会?」
「ああ、青学に借りを返してやる」
「ふーん…、まあ頑張れば?」
「…お前は普通に応援できねぇのか」
「してるじゃない」
全国大会が始まり、明日はいよいよ青学と対戦する日だ。
幼馴染である名前にそのことを話すが、興味なさげに自分の爪をいじってやがる。……ここ誰の部屋だと思ってんだ。
「明日は出かけるから応援行けないや」
「……●●財閥の息子と婚約したそうだな」
「…なんだ、知ってたの?」
「ああ、お前の母親がうちに来て嬉しそうに喋ってたぞ。やっと婚約する気になってくれたと」
「……そっか」
自嘲気味に笑う名前。
「自ら望んだ婚約なんだろ、なんて顔してやがる」
「………景吾だって、なんて顔してるの」
どこか寂しそうな目で俺をみる名前。
俺も、同じような顔をしているんだろうか。
……やめろ、俺をそんな目でみるな。
「明日の用事も、そいつとデートか?」
「…景吾には関係ない」
「まあ楽しんで来いよ、精々嫌われないように言動には気を付けることだな」
「っ、わかってるわよ!!」
バンッ、と激しい音を立てて俺の部屋を出て行く名前。
「…それでいいんだよ、バカ」
もう、俺のところになんか来なくていいんだ。
…と言っても、離してやれないのは俺の方なんだが。
♪〜
携帯が震え、着信を告げる音楽が鳴る。
表示された名前に、ひっそりとため息をつきながら電話をとる。
「なんだ」
【こんばんは、景吾さん】
「…要件はなんだ、宝城」
【用事がないといけませんの?婚約者なのに】
電話の相手は宝城グループの1人娘で、……俺の婚約者だ。
「要件を早く言え」
【…明日の試合、応援に行きますわ】
「ああ、そうか」
【頑張って下さいね】
「…わかった。今日は早めに寝たいんだ、もういいか」
【そうですわね、おやすみなさい】
宝城の寂しそうな声に返事も返さず、俺は電話を切った。
俺が応援にきてほしいのも、頑張れと言ってほしいのも、お前じゃねぇんだよ。
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