tns短編

□スキンシップも必要です
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「…切原さん」




やばい。

俺、焦って大事なこと勢いで言っちまった気がする。しかも、なんか名前の声が涙声なんだけど;






「…散々好きにならせといて、ってさ」


あ、俺そんなこと言ったのか、やばい、やばい。



「……どういうこと??ちゃんと言って」


俺の腕の中で、もぞもぞと動き、振り向いて俺を見上げた名前は、不安そうに潤んだ瞳が揺れていて、……本当に、愛おしい。





「…好き、だ。もう遅いかもしれねぇけど…、俺は最初から…名前のことが好きなんだ」



初めて名前と会ったときから、コイツに惹かれてた。けど、名前は俺に軽々しく触れて来ては、俺の反応を可笑しそうに笑ってきて。


だから名前は、俺のことが好きだとか言うけど、からかってるだけなんだと思った。

でも、好きな奴に好きだって言われるのは嬉しいし、触れてくれるのは嬉しい。

俺の気持ちも知らず、無防備に近付いてくるものだから、俺は我慢がきかなくなりそうで、コイツのスキンシップをあしらうようになった。





「…切原さん、今までそんなこと言ってくれなかったじゃん」

「っ、だから…今言ってんじゃん」

「バカ」

「は?お前、……え、泣いてんのかよ?」



バカ、と言ったことに文句を言ってやろうと名前をみると、名前は泣いていた。

慌てて拭ってやろうとすると、名前が勢いよく俺に抱きつく。






「ちょ、」

「切原さん好き、大好き」

「は?え、」



俺に抱きついてそう繰り返す名前に、俺の頭は混乱するばかり。(混乱しながらもしっかりと俺の腕は名前へとまわっている。つまり抱きしめてる)


は?お前、丸井先輩は?

そんなことを思いながら、そういえば丸井先輩の目の前じゃなかったっけ?と恐る恐る顔をあげると、そこにはさっきまでの睨みなんて嘘のようにニコニコと笑っている丸井先輩がいた。

しかも、その横には俺と一緒に丸井先輩と名前の後をつけていた仁王先輩までニコニコ笑いながら立っている。




「よかったのぅ、名前」

「言うのが遅いんだよ、赤也は」


気持ち悪いくらい笑いながら言う先輩たちに、名前は、バッと顔をあげて嬉しそうに笑う。




「丸井さんも仁王さんも、ありがとう」

「気にすんな、そのかわりまた今度ケーキ屋付き合えよ」

「うわ、もう勘弁してください;」

「俺はほっぺにチューで」

「うわ、それも勘弁してください;」

「……ま、俺らは退散するぜぃ」

「後はうまくやりんしゃい」

「はーい、ありがとうございました」



目の前で行われる会話について行けず、去って行く先輩たちをぼんやりと眺める。

すると、大丈夫?と名前に顔を覗きこまれ、つい後ずさる。





「……切原さん」

「いや、悪い。つい癖で」

「…いいんだけどね」

「それより、お前丸井先輩と付き合ってたんじゃねぇの?」

「え?…あー、それでもう遅いかも〜とか言ってたの?」

「だ、だってよ…」

「なんで丸井さんと付き合わなきゃいけないの。私は切原さんが好きなのに」



そう言うと、名前はもう一度俺に抱きつき、俺ももう一度名前を抱きしめた。




そのまま名前は、俺と下校しなくなってからのことを話し始めた。


結局は、やっぱり丸井先輩と一緒に帰っていたらしい。しかし、それは俺へのアピールの予行演習みたいなもので。

仁王先輩からは、俺の好みの髪型とかセリフとか態度とか、情報を集めていて、放課後デートではこんなシチュエーションが有効的だ、みたいなことを教え込まれていたらしい。(そしてそれを丸井先輩との予行演習で実習していたらしい)






「……じゃあ、キスは?」

「キス?」

「俺のクラスの奴が、名前と丸井先輩がキスしてるところ見たって」



その俺の質問に、名前はケロリとした顔で、したよ、と言い放った。





「は?したの?」

「え?したよ?」

「なんで?」

「なんで、って…別にキスくらい」


…あ、そう言えばコイツ帰国子女だっけ。外国ではキスくらい日常茶飯事か?そんなバカな、




「それに、初キスは済んでたし」

「……付き合ってた奴いるのかよ」

「違うよ、弟」




衝撃的なカミングアウトに、俺の思考がストップする。弟?……へー、弟。そうか弟か



「もう、俺以外とキスすんなよ」

「………なんで?」

「なんでって…、俺が嫌だから…に、……決まってるだろ」



自分の顔が赤くなっていくのがわかる。ったく、なんでこんなこと言わなきゃわかんねぇんだよ、察しろよ!





「…まだまだだね」




名前の唇が、俺の唇に軽く触れた。





「それくらいで照れてちゃダメだね」

「な、」

「他の人と出来ないくらい、切原さんがキスしてくれるなら考えてあげてもいいよ?」

「…お、お前なぁ」

「嘘。もう切原さん以外とは絶対にしない」

「…ほっぺたもダメだぜ」

「意外とヤキモチ妬きさんだね、切原さん」

「当たり前だろ、……好きなんだから」




自分の唇を名前のソレに押し付ける。

離れてはくっつけ、離れてはくっつけ、啄むようなそれを続けていると、心がホッコリとしていく。





「ずっと、こうしたかった」

「…切原さん」

「好きだ、名前のことが好きだ」

「私も切原さんのこと好きだよ」

「…付き合ってくれる、か?」

「もちろん」



そう言って嬉しそうに笑う名前を、優しく抱きしめた。





スキンシップも必要です


(ただしやり過ぎには注意!)
(私たちはもう恋人同士なんだからいいでしょ?)
(ま、まあ…俺らはな。//)




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