片割れの憂鬱。

□絶対に間違わない人
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テニス部の部室前、

赤髪のおかっぱと茶髪のおかっぱが言い争っている。



…といっても、赤髪がふっかけて、茶髪は軽くあしらっているようだが。








「…何してるの、千琴ちゃん」

「な、俺は岳人だ!」

「はいはい、今日もお疲れ様、千琴ちゃん」






赤髪は向日千琴。

彼女は何故か岳人と同じジャージを身に纏っており、茶髪のおかっぱに自分は岳人だと言うが、軽くあしらわれる。







「俺は間違えないよ。絶対に、ね。」


そう言って笑うのは茶髪のおかっぱ。

彼の名を、滝萩之介という。















「マネージャー?その子が?」

「ああ。他校が練習試合に来た時や、欠員等で人手が足りない時に手伝わせる」

「ちょ、跡部くん!私聞いてないよ!」

「ああ、今言ったからな。ちなみにお前に拒否権はない」

「え、」

「…というわけで、こいつに仕事を教えてやってくれ、萩之介。おい千琴、自己紹介しろ」

「……向日千琴、岳人の双子の妹です。」

「滝萩之介です、よろしくね」

「うん、(良い人そう…)」

「それにしても、双子って言う割にあまり似てないんだね?」

「……は??」








跡部に勝手に話を進められ、拒否権はないとも言われ、少し不機嫌だった千琴は、滝の“岳人と似てない”発言により、その日は怒って帰ってしまった。










その次の日から、彼女は滝に、似てない発言を取り消させるために、岳人と同じ格好をし、岳人のマネをしながら滝の周りをうろついているのだ。


しかし、滝は一向に千琴を岳人と間違わない。


















「いつまで凹んでるんだよ」

「…亮ちゃん」



ボーっと空を眺めながら、大きな木に背を預けている千琴の元に、休憩中の宍戸が近寄る。




「いいじゃねぇか、見分けてくれるんだから」

「…でも、似てないって言った」




拗ねたような物言いに、宍戸は仕方ないな、と千琴の頭を撫でる。






「でも、本当は嬉しいんだろ?」

「…どうしてそう思うの?」

「滝が千琴って呼ぶ度に少し嬉しそうな表情してっから」

「……そっか、うん、嬉しいよ、嬉しいけど、似てないのは嫌なんだよね。間違わせてみたいじゃん」

「まあ、あんまりその格好でうろつくなよ、知らない奴がみたら岳人に見えるんだから」

「うん、ありがとう、亮ちゃん」





休憩が終わり、部活に戻る宍戸を見送り、千琴は一足先に下校することにした。




















「…あ、そう言えば、今日あのマンガの新刊の発売日だっけ」



思い出した、楽しみにしていた漫画の新刊。


家に向けていた足を、近くの本屋に行くために逆方向へと向けた千琴。














「……おい、アイツ」

「ああ、そうだな」

「後つけるか?」

「そうしようぜ……」









漫画のことで頭がいっぱいになった千琴は、後ろに漂う不穏な空気に気付けなかった。






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