この桜の木の下で
□第三章 滞在
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片付けも一通り終わり、静雄さんはまた元の場所に座り溜め息をついた。
「…本当、すまない。」
「いいですって!謝り過ぎですよ静雄さん」
そう言って、俺は静雄さんを安心させようと笑いかけた。
「…ありがと、な」
そう言うと、静雄さんは俯いたまま小さく笑った。
すると、静雄さんは何かを思い出したかのようにばっと頭を上げ俺を見た。
「奈倉…さっき桜の木の所で俺がお前に親父の居場所を知っているか聞いた時、お前何か言おうとしてたよな!?」
「…?…えっ?……えっとぉ…」
「だから、…さっき…俺の…腹が…なった時…」
そう言うと、静雄さんは顔を真っ赤にしていた。
「あぁ!…えっと…それは…」
俺はさっき、津軽はもう死んでしまったと言おうとした。
でも、お父さんである津軽を必死に探している静雄さんを思うと、とても言いにくい。
「…したよな?」
静雄さんは、とても真剣な顔で聞いてきた。
これは何か言わないと逆に怪しまれるかも…。
「…さっきは…もう津軽は折原の軍に居ないよって言おうとしたんだ」
「…それは、俺も知ってる情報だ…。」
そう言うと、静雄さんは少しがっかりしていた。
「此処に来る前に何人かの村人に聞いたんだ。」
「…そっか…。」
「あぁ。なんか折原の軍、負けたんだろ。…四木とか言う奴に…。」
「…」
「日本一強い軍だったのに…相当ひでぇ戦い方されたのかもなぁ」
「…」
「そういやぁ親父、城下によく来てたらしいなぁ。此処にもよく来たのか?」
「…どうして…?」
「いや、だってよぉ…お前親父の事津軽さんじゃなくて津軽って呼んでんだろ?…だから、知り合いなのかなって思って…」
「…どうしてそう思ったの?」
「だってよぉ、お前初対面の奴にはさん付けなんだろ?初対面の俺にさん付けなんだから。…けど親父の事は名前だけで呼んでる。
って事は知り合いなのかなって…」
「それで、ですか。いやぁ、よく人を見てますねぇ。確かに…知り合いでしたよ」
そう言って、俺は静雄さんに笑いかけた。
…嘘はついてない。
本当に知り合いだったのだから。
ただ、地位や俺が抱いていた気持ちが知り合いとは少し違っていただけだ。
そう心の中で言い足していると、
静雄さんはまた津軽の事を話始めた。
俺が知り合いでした、と過去形を使ったのにも気付かず…。
「ここら辺の人によると、親父はよく城下に来ては話し相手をしてやったり子供と遊んであげたりして…結構顔が広かったらしいなぁ」
…初めて知った。
よく城下に行っていたのはなんとなくわかっていたけど、城下の人にまで優しくて、いつの間にか有名になっていたんだ。
「そういやぁ、此処にもよく来てたんだろ?」
「あぁ。…うん」
「…じゃあ、1ヶ月だけでいい。
…俺を此処においてくれねぇか?」
「えっ…。いや、でも…」
「迷惑は掛けねぇ!だから…お願いだ!」
そう言うと静雄さんは俺に土下座して頼んできた。
「絶対…見つけたいんだ…。」
静雄さんは土下座したまま、静かな低い声で呟いた。
ここまでされたら断りにくい。
でも、津軽は死んでる。1ヶ月此処にいても見つかる訳が無い。でも、もしかしたら津軽はもう死んでしまっている事を知っている人がいたら俺の代わりに静雄さんに教えてくれるかもしれない。
そんな僅かな期待を抱き、俺は静雄さんに返事をした。
「1ヶ月…だけですよ」
そう言うと、静雄さんは顔をばっと上げ、ありがとうございます!と何度もお礼を言った。
もし、誰も津軽が死んだ事を知らなかったら、静雄さんには申し訳ないけど、旅を続けてもらう事になる。
でも、見つからなかったら諦めて家に帰るだろう。
俺はそう自分で納得し、静雄さんの滞在を許した。