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□跡観
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「ん・・は、あっ、もうっ、だめ」

ぐちゅぐちゅといやらしい水音が聴覚を犯し、下半身の熱は上り詰める。彼の律動が早まり、最後に腰を強く打ち付けられると、とてつもない脱力感に見舞われると同時に、頭が真っ白になった。気持ち良い。体内をかき回し犯したものが、まだ、どくどくいっている。彼は腰を緩くスライドさせ、少し乱れた呼吸を整えながら、熱を失いかけているものを体から引き抜く。ズルり。異物が抜かれる感覚に違和感を感じ、不覚にも小さな声が漏れてしまう。酸素を取り入れようとすると、ひゅう、と喉が鳴った。
四つん這いの姿勢からベットに仰向けに寝転がる。ころん。彼はそんな僕を横目で見遣り、ふっと鼻で笑うだけだった。寝転がる二人。まるで試合後のような気だるさ。何も交わさず、無言でただ、天を仰ぐ。
腕枕なんてものはしない。割り切ってるのはお互い様。だからキスもしない。彼はキスをしようとしてくるけれど、それは違う気がして、断わり続けている。その度に不服そうに眉間にしわを寄せるのは毎度のこと。まず、何より二人は男であるわけだから、体を重ねること自体、神の教えに背いている。こんな、無意味で、無生産な行為。キス云々より、もっと大事なことがあるだろう。そんな、考えれば考えるほど複雑になる思考を無視しようと、 「・・馬鹿らしい」と小さく呟き溜息を吐いた。

鉛のように重く感じる上半身を起こし、重心を後ろに片手でバランスを保つと、空いた手で前髪をかきあげる。汗で手のひらがじっとりと水気を帯びた。濡れた髪が、肌にぴたりとくっついてくる。嗚呼、気持ち悪い。彼はそんな僕に視線だけ、此方へ向けた。

はあ、と一息つきベッドから両足を下ろす。軋むスプリング。ギシリ。先程までこのスプリングはひっきりなしに鳴り続けていたことを思い出し、罪悪感のような何とも言い難い感情に見舞われた。駄目だ、頭がぼーっとして変な思考がぐるぐる回る。このままでは寝てしまいかねない。体に鞭打ち痛む腰を無視して立ち上がり、もたつく足で浴室に向かおうとする。・・のだが、手首を掴まれ先に進むことができないのだ。・・何なのだろうか、早く汗を流したいのに、という意味を瞳に精一杯込めて、繋ぎとめられている其れに視線を落とす。

「薄情なやつ」

薄情?

この男はなにを言っているんだろう。きっと不快に思っている感情を隠せていないだろう。ぐちゃぐちゃになってしまった白いシャツに視線を移し、嗚呼、こんな皺くちゃなシャツ、着て帰りたくない、なんてどうでもいいことを思ったりして。

掴まれたままの手を静かに剥がすと、抵抗もせずあっさりと退けてくれた。彼の手はひんやりしていていつも気持ちがいい。風呂場に向かい歩みを進めると、背後で微かに彼の溜息が聞こえたような気がしたが、気のせいだと思おう。まずはこの、張り付く汗や下半身の違和感をリセットしたい。


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