10/30の日記

08:36
小話その3
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タナトス関係の小話終了。
あとでまとめて小説コンテンツに放り込みます。

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祖母が亡くなってから1年が経った。

屋根裏に仕舞ってある何かを取りに行こうとして、梯子から落ちたらしい。
すぐに病院に搬送されていれば助かったかもしれないけれど、運悪くそのとき家にいたのは祖母一人だった。
強く頭を打った祖母は、それでも意識はあったらしく、自力で救急車を呼ぼうとしたのか電話機の側まで這いずって力尽きていた。
80過ぎまで生きて、そんな痛々しい死に方をするなんて、と親や叔父叔母は言うけれど、祖母は案外死ぬ瞬間は幸せだったのではないかと私は思っている。
既に冷たくなった状態で発見された祖母は、とても嬉しそうに笑っていたそうだ。

「おばあちゃん、昔好きだった人に会えたんだよ。おばあちゃんが死ぬときに迎えに来てくれるって約束だったんだって」

お母さん達には内緒だよ、と私の耳元でささやいてくれたのは祖母と一緒に暮らしていた従妹だった。
祖母がまだ少女だったころ、恋人とそういう約束を交わした、と祖母が言っていたそうだ。その恋人とは約束の少しあとで離れ離れになって、それ以降二度と会うことはなかったらしい。

「おばあちゃん、その昔の恋人と再会出来たんだよ。
だからあんなに幸せそうだったんだよ」

ロマンチックだね、と笑う従妹にそうだねと笑い返す。
そういえば、祖母の遺品を整理していた母と叔母が薬壺がない、と不思議がっていたのを思い出した。

薬壺というのは、祖母が大切な人からもらったという宝物の瓶のことで、どこの工芸品なのか本物そっくりのどくろが装飾された悪趣味な代物だった。
昔、この瓶気味が悪い、と不満を口にした幼かった私に、大切なひとと再会するための目印なの、と祖母は笑った。
その再会を約束した相手とは従妹が言っていた昔の恋人のことだったのだろうか。


そうだと良い。
ずっと焦がれた相手と再会できたから、祖母は笑っていた逝った。
役目を果たした再会の目印は祖母とその人が持っていったのだろう。

それはとても素敵なことに思えた。

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