SHORT

□ソーダアイスが溶ける前に
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ミーンミーン…


「あっつ…溶けそう」


「確かに今日は熱いね」


だらりとソファーに寝そべりながら蝉の鳴き声を聞く。
八月ともなると暑いことこのうえない。
そして隣の家の幼なじみ、滝萩之介が何故か当たり前のようにうちのリビングでテレビを見ている。


「あのさ萩、何故君が家にいるのかな?それと勝手にチャンネル変えんな、見てたのに」


私は立ち上がり椅子に座っていた萩からチャンネルを奪う。


「おばさんが一日留守するから変わりに我が儘娘の面倒を見てくれない?って頼まれたんだよ」


お母さん萩になに頼んでんのよ。いくら萩がしっかりしてるからってなんでも萩に頼るのやめてよねったく…

「別に面倒見て貰わなくて結構。なんで萩に面倒みて貰わなきゃ――」
「あーあ、せっかくアイス買ってきてやってたのに――」
「萩之介様、私なんかの面倒見ていただき大変嬉しい限りです」


萩に一礼して私はすぐさま冷凍庫にアイスを取りに行く。


「あー!ソーダアイス。流石萩、わかってんじゃんっ、やるねー!」


「なにそれ俺の真似してるの?」



アイスを前に上機嫌な私は萩の突っ込みを無視しソーダアイスの袋を開ける。

そしてすぐさま滝の正面に座り、食べる作業に取り掛かった。


「お前は食べ物出てくると単純だよね」


「わふはっはへ、はんひゅんへ!(悪かったね、単純で!)」

「こら、食べながら喋らない。ったく、これだから彼氏の一人も出来ないんだよ」

「萩に関係ないでしょ!」


かじりついたアイスを飲み込み、萩に言い返す。
作ってないだけだもん、作ろうと思えばいつだって出来るし!…なんて言ってもどうせ強がるなとか一蹴されるんだろうから言わないでおこう。


「…アイス、溶けてるよ」

「へ?うわっ、手にかかってるし、ベタベタ」


萩と話してるうちにアイスが溶けていたらしい。
溶けてしまったところからなめていたが口の回りについてしまった。


「アイスは溶ける前に食べなきゃね…」

口の回りがベタベタなのはわかっているがアイスがこれ以上溶けてしまうともっと厄介だ。
食べることに専念して後から拭こう、なんて考えていると


「ったく…」

と、ため息混じりに言い立ち上がった。

ウエットティッシュでも取って来てくれるのかと顔を上げたら、予想以上に萩の顔が近くにあった。






そして、ぺろりと私の口の横についたアイスを舐めた。





「……〇■§△%☆!?」

言葉にならない言葉を発し、椅子から転げ落ちる。
その勢いでアイスを床に落としてしまった。

いや、アイスなんて今はどうでもいい。
今…こいつ…何した!?


おそらく真っ赤であろう顔を上げて萩を見ると、くすくすと笑っている。
確信犯か!?

「な…に、すんのさ」

「いや、…ふっ…可愛いなって」


「なっ!?に言っ…て…」

顔が赤い。恥ずかしい。


思わず後ろへ後ずさると、壁に追い詰められてしまった。

少し上から見下ろす萩を見つめる。

うう…泣きたい。


「……こんなことになるから今度からアイスは溶ける前に食べること!」


なにをされるのかと身構えていたら、そんなことを言われ、滝はテレビの前に去っていった。


真っ赤になった私は体操座りに顔を埋めながら

今後絶対にアイスを溶かさないようにしよう!!

と、心の中で誓った。








この時、耳まで真っ赤になっていた幼なじみがいたことに気付かずに。


(…涙目上目遣いは…反則でしょっ…)

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