キッド海賊団@

□知らぬ間の出逢い
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それは前の島で起こった出来事だった。
ポカポカした春島に到着したキッド海賊団。
あまりののどかさに海賊業を行う気にもなれず、食料だけ調達してすぐに出航しようと思っていた。
しかし、ログが溜まるのに一日は掛かると言われて仕方なく停泊する。
小さな街があるだけのその島。
その日の夜、キッドは一人でその街の酒場へと足を運ぶ。
こんな小さな街の酒場にこそ名酒が置いていたりするのだ。
扉を開くとカランカランと小さな音が響いて来客を知らせる。
店の中を見渡せば、客は数人だけしかいない。
これなら静かに酒が呑めそうだ、と口角を上げて笑う。
カウンターの中にいる店主に近付いて、一番美味い酒を注文する。
ふと、そこで目に入ったのはカウンターに突っ伏していた女だ。
顔は見えないが、服装は…地味としか言えない程の代物。
しかし、目には見えない雰囲気のような物がキッドに興味を持たせた。
 
「おい、この女いつから居るんだ? 」
 
「そのお嬢ちゃんなら夕方からずっと呑み続けて、さっき潰れたとこだ」
 
店主はキッドに酒瓶を渡しながら突っ伏す女を見て苦笑を浮かべる。
キッドの予想通り渡されたのは珍しい酒だった。
機嫌良く栓を開けて酒を味わう。
カシャン、と下の方で音がしたと思えば床にはダサい眼鏡が転がっている。
突っ伏していた女が身じろいだことで落ちてしまったようだ。
 
「嬢ちゃん、また落としてるぞ…」
 
「…ん……んん…」
 
店主が女の肩を揺すって起こそうとする。
一つ席を空けて座っていたキッドは呑んでいた手を止めてその様子見ていた。
女は苦しそうな声を出しながらゆっくり身体を起こす。
片手で前髪を掻き上げたかと思えば、横にいたキッドの方へ向いた。
 
「……ヘェ…」
 
女は左右で色の違う瞳をキッドに向けて、少し微笑む。
まだ少し幼さは残っているが、かなりの上玉だ。
それにオッドアイの瞳なんて珍しい。
キッドは女に近付いて瞳を覗き込んだ。
酒のせいか、眠そうにしてはいるがキッドから目を逸らさない。
宝石のように綺麗な赤と青の瞳を持つ女。
 
「お前……」
 
「……キレ〜な、赤色ぉ…」
 
「いっ⁉ テメッ…」
 
女の手が伸びて来たかと思えば、いきなりキッドの髪を掴んだ。
あひゃひゃひゃと楽しそうに笑っている事からまだ酔っているのがわかる。
こんな女、殺そうと思えばすぐにでも殺せる。
今まで気に入らない者や自分をからかう者は皆殺しにしてきた。
だが、色違いの瞳を細めて笑うのを見ると不思議とそんな気分になれない。
 
「赤は〜…暖かーい色なのぉ〜…」
 
満足するまでキッドの髪を撫で回せば、再び眠りの世界へと落ちる。
床に転がっている眼鏡を拾い上げてやりながら、キッドは女を見つめた。
面白い女だ、と笑みが零れる。
 
「面白い子だろ? 何でも、幻の石を捜して一人で旅してんだとよ…」
 
「幻の石? 宝石か何かか? 」
 
「さぁ、詳しいことは知らんが…手に入れれば幸せになれるらしい…」
 
「ハッ、くだらねェ…」
 
カウンターに数枚の札を置いて席を立つ。
もう一度だけ女の顔を見たいと思ったが、突っ伏したままなので諦めるしかない。
チッと軽く舌打ちをして、船へと戻るために店を後にした。
船に戻る道を歩きながらも、キッドはさっきの女のことを考えていた。
向けられた笑顔が頭から離れない。
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