短編2
□子猫ジローの冒険B
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ニオウの言ったことは嘘ではなかった。
再びヤナギの家の門をくぐった俺の目に、きれいな赤い毛の猫が落ち着きなく歩き回っているのが見えた。
やっと会えたことも、俺のことを心配してくれてたことも嬉しくて、俺は「ブン太君!」と大声で呼んで一目散に駆け出した。
「ジロ君!?」
俺の出現にびっくりして目を丸くしているブン太君に飛びかかって、思いっきり抱きついた。
あったかくてE匂いがする。
ようやく念願叶ってブン太君に触れることができた。
「ブン太君ブン太君、会いたかったよ」
「本当にジロ君か? どうしたんだよ、心配したんだぞ」
俺たちは抱き合いながらヤナギの家の庭をころころ転げ回った。
「一日だけでもブン太君と一緒に遊びたくて、家から逃げてきたんだよ」
「そんな無茶しやがって……怖い目に遭わなかったか?」
「平気だよ。カルピンもヤナギもニオウも、みんな親切にしてくれたC」
「よかった」
ブン太君は心から安堵した様子で言うと、俺をぎゅっと抱きしめてくれた。
「俺、昨日すぐに帰っちゃったからジロ君が気を悪くしたのかと思った」
「そんな……」
「本当はもっといたかったけど、あんまり俺と仲良くしたらジロ君が飼い主に怒られるかと思ったから……」
「跡部は俺を怒ったりしないよ。でも、ブン太君とは一緒に遊んじゃダメなんだって。だから逃げ出して……き……た」
「ジロ君?」
覗き込むブン太君の顔が霞んでいく。
「緊張の糸が切れて眠くなったようだな。相当疲れていたのだろう」
薄れていく意識の中でヤナギの声が微かに聞こえた。