短編*

□霧の中で逢いましょう
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「……僕は明日、白蘭の元に姿を現します。
まあ何やら視線を感じる。
もう気付かれているかもしれないですね」

「頑張ってくださーい。
ミーも可愛い弟子として骨を大切に拾い……」

「お前の手を借りることはないとは思いますが、念には念をです。」

「……分かってますよー」

「……お願いしますよ」



骸は去ったが、いつもと同じ様に霧は晴れずに今では見慣れた少女が現れた。


「クロームネーサン」

「……あの」

「どうしましたー?」

「これ……分かんなくて」

「あ、イタリア語ですねー。
……こうなります、けど」

あれこれと教えているうちにふと疑問に思って聞いてみた。

「クロームネーサンはなんでそんなに、師匠とイタリア語で話したいんですー?」

「……夢、だから」

「夢ですかー?
ミーには分かりませんー……」

本当に分からない。
骸と話す、それだけなら日本語でも出来るのだ。
イタリア語で話したい、というクロームの感情がどうしても理解できなかった。






それから月日が経ち。

それはリアル六弔花との決戦の日。
ゴーストが突然何かを放射した頃だった。

「あれ?」

遠くから見知った少女が走ってくるのが見えた。

「いけない」

そういって骸は走ってクロームの元へ向かう。

二人の所へ更にゴーストが放射した「何か」が向かうのを見て、咄嗟に少し前にふざけて特注した匣で行く手を塞いだ。

「師匠おたすけー」



騒ぎが収まった頃。
改めて少女の所へと行った。

「クロームネーサン」

「……さっきはありがと」

「いいえー。
あ、それより」

「……?」

「現世(うつよ)では初めましてですよねー。
霧の中で逢いましたけど」

クロームがふわり、と笑ったのでつられてフランも笑ってしまった。


「……また……」

「はいー?」

「……あの、イタリア語……教えて」

「もちろん良いですよ。
ただしー……」

少し首をかしげるクロームに、眉を潜めて言った。


「今度から現世でにしてくださーい。
ミーの睡眠時間が風前の灯火ですので」

クロームは無言のままこくり、と頷いた。


――僅かに嬉しそうに頬をあかく染めて。






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