Present
□今日はトクベツ。
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「新里さん、ちゃんと収めてきたんでしょうね?」
この学校の司書は、なかなかお節介だ。ひとつ注意して蹴散らせばいいものを、わざわざ<収めろ>と<原因>に注文する。「収めてこなければ、図書室を利用させない」と脅しめいたことまで言い出すのだから勘弁してほしい。
「円満にとはいきませんが、それなりに収めてきたつもりですよ」
ならいいわ、とご機嫌に図書カウンターに戻っていく司書の背中を見送ることはせず、<収め>に行く前まで座っていた場所に腰を下ろした。
早く手がかりを探さなければならないのに。
早くアイツを探し出したいのに。
僕は今、他のことに時間を取られている場合ではない。
終着点は見えないけれど。
執着ばかりで見えないけれど。
終わりの来ない目的なのかもしれないけれど、探さずにはいられない。
たったひとり、愛し続けているアイツのことを。
なんの手がかりも、ないというのに。
自嘲しつつ、手にしていた十年以上前の新聞を捲る。
記載されている名前や物語になにかヒントがないのかと、幼少時から新聞や歴史書をひたすらに読み続けているが未だに、欠片も見つからない。けれど、諦めたりはしない。
ふと、新聞の広告欄が目についた。それは先ほど、言葉にしたばかりのハンバーグ店の広告だ。
「イモウト、ねえ」
それなりに家族とはなるべく接するように――主にプロフィールの把握を――してきたつもりなのだが、そうそううまくはいかなかったようだ。まさか「姉と呼ぶな」という発言が、「妹だと思いたくない」という意味にとられてしまうとは思いもしなかった。
新聞を捲り、視線で活字を追いかける。
「<家族>は初めてだしね」
四コマも飛ばさず読み込む。もしかしたら、作者がアイツかもしれないから。
「…………はあ」
四コマ目のオチを読み終わったところで、僕は新聞を閉じた。
他人を泣かせる趣味はない。アイツがいたらきっと、「フォローくらいしてやれよ」と呆れるのだろうし。
新聞を棚に戻して鞄を手に取ると、司書がもう帰るのかと目を丸くする。その視線に応えることなく、図書室の扉に手をかけた。
近所のスーパーマーケットで、冷凍ハンバーグでも買って帰ろう。
――END.