僕はオトコに生まれたかった。
□僕はソウイに振り回された。
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結局僕らは、夜景スポットではなく、別ページに載っていた「デートにぴったり! ランチレストラン」とやらに行くことにした。
電車を乗り継いで三十分という、やけに遠いところだけれど、大和斉と僕の関係を考慮するならば仕方がない。
レストラン、と言ってもファミリーレストランに近いその店の、窓際の四人掛けのソファに向かい合って座り、それぞれメニューに目を通す。
「お前なに食べんの?」
数種類のパスタと、ステーキ、ハンバーグなど、定番のメニューを上から順に辿りながら、大和斉を一瞥した。
「まだ決めてない。君は魚介類のパスタが好きそうだよね」
好きそう、ではなく、好き、だと確信していた。けれど、
「いや、俺、魚介類ダメなんだわ」
「え!?」
思わず顔を上げた。
大和斉と出会ってから、初めて見たアイツとの相違点。
アイツは魚介類が大好きだったはずだ、それなのに、何故大和斉は――。
そこまで考えて、肩に入っていた力が落ちた。
大和斉は、アイツだけれど、この二十五年で大和斉は大和斉の人生を歩んでいる。どんなに仕草も癖も言動も共通しているといったって、全てが同じというわけにはいかないだろう。
「そうなんだ……」
なるべく平静を装うとしたけれど、言葉に力が入らなかった。
大和斉とアイツは違う、という認識は、僕の全ても否定してしまうようで、受け入れられない。
それでも、大和斉の前ではなんでもない風を装いたかったし、今更だけれど弱い部分を見せたくもなかった。
だから平静を装うとしたけれど、言葉に力が入らなかった。
「どうした?」
僕を覗き込んでくる大和斉に、曖昧な笑顔を返す。
「いや、ちょっとびっくりしただけ」
「なにが?」
「君、魚介類が好きそうな顔だったから」
「どんな顔だよ」
自分でも無理があると思ったけれど、今は頭が回らない。
「まあ……」
と、大和斉。
「昔は好きだったけどな」
「えっ!?」
「驚くことかぁ?」
驚くことに決まってる。だって、ついさっき魚介類がダメだと言ったくせに、僕を落ち込ませたくせに、それを裏返すような発言をしたんだから。
「じゃあなんでダメになったわけ?」
少し身を乗り出して問いかける。
大和斉はメニューに視線を落とした。
「昔食べた魚介類が腐ってたんだよ。それで、食中毒になったんだ」
「それは……、ご愁傷様」
確かに、それではダメになっても仕方ない。
大和斉とアイツの相違点にきちんとした理由があったことに少しホッとして、メニュー選びを再開した。
「えーっと、じゃあ僕はモンブランと、レモンとハーブのチキンソテーのドリンクセットにするよ」
「え、レモンとハーブのなんちゃらってあったか?」
メニューをめくり、なんちゃらの載ってるページを探し始めた大和斉に淡く苦笑しながら、僕は自分の持っていたメニューを見せた。
探すより、僕の開いたページを見る方が、幾分時間短縮できる。
「ここ、載ってるでしょ?」
「あ、じゃあ俺は」
「トマトソースのチキンソテー……で、あってる?」
今度こそ、と大和斉の反応を窺うと、大和斉は一瞬驚いたような顔をして、首を縦に振った。
やった、当たった、と、心の中でガッツポーズ。
自分でも呆れるくらい、単純だ。
これしきのことで、こんなに嬉しくなるんだから。
「大和斉」
「相変わらずフルなのな」
「これ、半分ずつにしてくれるよね?」
もちろん、チキンソテーの話だ。