僕はオトコに生まれたかった。
□僕はシアワセを追いかけられない。
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土曜日午前十時に駅前オブジェ。何度その予定を頭の中でリピートしただろう。
本当はこんなに近くに寄ってはいけないんだと、頭の中の理性が訴えるのに、心が、身体が、その理性を跳ねのける。
こうしてアイツと二人きりで出掛けること、公然と並んで歩くこと、それを僕がどんなに望んでいたか。きっとアイツにはわからない。
だから、そう、どうしたって、この予定に、拒否権を行使することはできなかった。
「やっと来たか」
待ち合わせ時間十時十分過ぎ。僕はオブジェに寄りかかる大和斉の前に姿を現した。
本当は一時間前にはこの場所にいたのだけれど、待っていなかったのは、複雑な恋心によるものだ。
それに、アイツはどれだけ口酸っぱく遅刻するなと言っても、わざとじゃないかと思うくらい毎回十分は余裕で遅刻していた。
そしてもれなく、大和斉も遅刻してきた。
「やっと、って、いつからいたの?」
「そりゃ十時に決まってんじゃねーか」
平然とした顔でよくまあそんなことが言えたもんだ。
僕はずっと見ていたけれど、大和斉が現れたのは予想通り十時過ぎてから。それを見て僕の口角が緩んでしまったのは、きっと呆れたからだ。そうに違いない。
「まあ、いいけど」
小さく溜息をつきながら、大和斉を改めてみる。
大和斉は、恐らく寝間着にしていたのであろうタンクトップ――ちょっと皺がついていた――の上に白いシャツとデニムジーンズというありきたりな格好をしていたけれど、どこかしらオシャレな雰囲気が漂っているのは、きっとその顔立ちのせいだろう。
チラチラと通りすがりに見て行くオンナの視線。
鬱陶しい。
「お前さぁ」
大和斉の呆れたような声に、ビクッと、肩が揺れた。
まさか周囲のオンナたちを威嚇していたのがばれたのか。
「せっかくのデートだってのに、その格好はなくねぇか?」
どうやら僕の格好に呆れていたらしい。ホッと胸をなでおろしながら、自分の格好を見下ろした。
白いTシャツ、シンプルな薄いブルーのレイヤードにデニムジーンズ、スニーカー。長い髪は後ろの低い位置で無造作に縛っている。確かに、女性がデートをする格好ではないとは思う。
でも、
「僕、オンナの服って嫌いなんだよね」
特に大和斉の前ならなおさら。
「もったいねーな。宝の持ち腐れって感じだな」
「ルックスの話?」
「性格はともかくルックスはいいだろ、お前」
「君は僕の地雷を踏むのが得意だね?」
僕の外見は明らかにオンナのものだから、褒められるのはまったく嬉しくない。
僕に睨まれた大和斉は、少しだけ不思議そうに首を傾げたけれど、その後すぐに「悪い」と謝った。きっとどの辺が地雷だったかはわかってないはずだ。
「まあ、いいよ。で、なんで僕を呼んだの?」
わざわざ生徒を休日に呼び出しておいて、まさか何の用事もないとか、そんな馬鹿なことはあり得ない。
じっ、と大和斉を見つめる。
大和斉は両眉を跳ね上げて、何言ってんだ、と腕を組んだ。
「お前とでかけるために決まってんだろーが」
まさか。
「いや、だから、なんで僕と出掛けるの」
「なんでって」
まさか。
「お前と俺が仲良くするためだ」
「…………まったく、君は」
相変わらずの、考えなしだ。
けれどそうやって、君の予想外の行動に振り回されることが嬉しいと思ってしまう。
「いいよ、今日は付き合ってあげる。それで、どうするの?」