僕はオトコに生まれたかった。
□僕はネツに導かれた。
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「僕になにか言うことは?」
終業ベルが鳴って早々、準備室に入っていった大和斉を追いかけて、開口一番そう言った。
大和斉がそれはそれは面白そうに僕を見下ろすものだから、自然と眉間が狭くなる。
面白がられている。
絶対今、面白がられている。
キッ、と大和斉を見上げると、大和斉は苦笑しながら自分の椅子に座り、もう一つの椅子を僕にすすめた。
「このままでいい。僕は一刻も早くここから立ち去りたいんだ」
「それは、俺の顔を見たくないからだろう?」
「しつこい」
そうやってわざわざ言葉にして、僕の反応を見て楽しんでいる。
僕はどうしてこんなヤツが好きなんだろう。自分でもちょっと不思議だった。
「で、僕を無理矢理ここに引っ張って来た意味と、雑用を押しつけようとした意味を教えてほしいんだけど?」
ショック療法、とかなんとか言ってたけれど、僕にはどの辺がショックに値するのか皆目見当がつかない。
大和斉は相変わらず面白そうな顔で、クククと笑った。
「お前、人を悪者にして逃れといてよく言うな」
「…………」
「『どうしても罰を与えたいっていうのなら』よく言えたもんだ。自分がサボっといて、罰を与える俺が悪いみたいになぁ……」
改めて指摘されて、僕は自分の卑しさに呆れた。
結局僕も、粟木しずく達と同じ方法を使っていたのか。
そう思うと、もう何を憎んで心の支えにすればいいのかわからなくなる。
結局僕もオンナだったのか。
あんなに毛嫌いしているオンナなのか。
「おい」
呼びかけられて、いつの間にか俯いていた顔を上げる。
ぶつかったのは、心配そうな色をした瞳だ。
「な、に?」
今までの表情と打って変わったその真剣な顔に、困惑して一歩後退った。
「大丈夫か……?」
それでも間合いをつめて、僕の顔を覗き込んでくる大和斉。
そんな目で、見つめないでほしい。
抑え込んでいる感情をぶつけてしまいそうだ。
「な、にがだよ……」
「泣きそうな顔、してるから」
デリカシーのないヤツだ。
泣きそうな顔をしている人間が、笑いをこらえているとでも思うのか。
泣きそうな顔をしている人間は、泣きたいのを我慢しているんだ。
けど、僕は絶対に泣かない。
「そんな顔してない」
「いや、でも」
「してないっ!」
どうか気づかないふりをして。
せめて気づかないふりをして。
祈るように叫んだ。
大和斉は僕の声に驚いたように目を瞠っていたけれど、それ以上そのことについては何も言うことなく話を戻した。
「お前が俺の顔を見るのが辛いってんなら、ずっと俺の顔を見てたらそんな感覚麻痺してくるんじゃないかと思ってな」
「は……?」
「弱点を克服するには、弱点をぶつけ続ければいい、ってこった」
いや、てこった、とか言われても、ああなるほど、とはならないんだけど。
「僕はそれを喜んで許容するほど、マゾじゃないんだけど」
「別に喜んで許容しろ、なんて言ってねーだろ。嫌でも前を向け、つってんだ」