僕はオトコに生まれたかった。
□僕はシンジツを受け入れない。
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悔しいことに、舌打ちをした僕と打って変わって、僕の心臓は正直らしい。大和斉が目に入った瞬間から、いや、声を聞いた瞬間から、テンション高く、大きく跳ね始めた。
「なに……?」
屋上のときのように、声を低くしながら睨む。
けれど大和斉は気にした風なく、僕の隣の席に座った。
コイツは空気が読めないのか。読めないのかもしれない。
「何書いてんだ?」
こちらに向けた椅子の背もたれに寄りかかりながら、僕のノートを覗き込む。
ノートには、先ほどの題字と消ゴムで消して薄くなった彼の国の文字しかない。見ようによってはポエムのタイトルにも見えるそれを、僕は何気なくノートを閉じて隠した。
「隠すことねーのに」
「授業はどうしたの?」
授業中のはずの教師が何故こんなところにいるのか。まさかサボりではあるまい。
目も見ずにそう尋ねた僕の顔を、大和斉は少しだけ椅子を近付けて、掬い見た。
「お前こそだろ。俺の授業堂々とサボりやがって。しかも見事にホームルームにも出ねえし。何か不満があんなら言えよ」
がたん、がたん、と椅子を揺らす大和斉に眉根を寄せる。
「不満なんてないよ」
不満なんてまったくない。
ただ、僕が弱いだけだ。
傷つくことが怖くて、これ以上僕を否定されることが怖くて、大和斉から逃げた。強いて理由をあげるとするならば、それだ。
「なんで俺を避ける」
「君とは気が合わないから」
「たとえば?」
酷い男だ。
わざわざ僕の心にとどめを刺しに来たのか。
どれだけ僕を傷つければ気が済むんだ。
「どうして言わなきゃならないんだよ。君は、自分を避ける生徒全員に、そうやって声をかけるつもり?」
評判を聞く限り、大和斉を避ける生徒など極少数だろう。もしかしたらいないかもしれない。いたとしても、僕のようにあからさまに授業放棄をするような避け方などしないはずだ。それでもそう問いかけたのは、ただの八つ当たりだった。
大和斉は片眉だけを器用に上げた。
「何言ってんだお前?」
「え?」
「俺を避ける奴にいちいちかまってられっかよ。けど、面と向かってボイコット宣言されて、尚且つ実行しやがった奴を、気にならないわけねーだろーが」
不意打ちだ。
気にならないわけがない。それを好きな奴に言われて、嬉しくならないわけがない。
くそっ。
悔しい。
絶対、表情に出してなどやるものか。
「で、わざわざ授業中なのに探しにきたってわけ?」
僕はわざと、呆れた表情を作った。
「おう、事情を聴きにな」
堂々と言い放つ大和斉は、悪い笑みを浮かべている。どうあっても諦めないつもりだ。
はあ、とこれみよがしに溜息をついてから、僕は机の上に頬杖をついた。
「何が聴きたいの?」
「だから、なんで俺を避ける?」
「君は馬鹿なの? 気が合わないからって言ったじゃないか」
何度も言わせないでほしい。その言葉を口にするたびに、僕と大和斉との間に境界線が引かれる気がして、辛い。
「俺は、たとえば? って聞いたと思うが?」
「どう答えて欲しいの?」
君の望む答えなら、いくらでも用意しよう。けれど、君の求める答えは、絶対に開示してやらない。
そんな意地悪な思いでそう返したのに、大和斉は真剣な眼差しを返してきた。
「シンジツだ」
シンジツ。