僕はオトコに生まれたかった。

□僕はシュウチャクを望んでいた。
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 ほかの生徒曰く、大和斉とは、仕草は粗雑だが授業は丁寧でわかりやすく、言葉は乱暴だが不快感は覚えない、男子生徒にも女子生徒にも人気な教師らしい。

 なんともでき過ぎた男だ。

 不審感を覚えるくらい。

「信用ならないね……」

 愛する男に何を言うんだ、と僕の気持ちを知る者がいたとすればそう言うに違いない。けれど、どうしても信用ならないのだ。何故ならライリもそうだったから。

 アイツは、自分を隠すのが上手かった。そんなアイツが秘めようとすれば、僕らの関係は決して外には漏れない――はずだった。

「あー……もうやめやめ!」

 伏せていた顔を上げ、ぶるぶると首を横に振る。

 ふぁさふぁさ、と長い髪が顔にぶつかって、正直邪魔だとは思ったけれど、つい先日お世話になったばかりだったので、悪態もつかず、大人しく背中で一つに縛る。

「さて、僕がとる行動を考えなくちゃ!」

 よし! と、机の中から生物用のノートを取り出し、白紙ページを広げた。

 机の横に引っかけている鞄の中から筆入れを取り出し、百円ショップで買った十本百円のシャープペンシルを手に持つ。

 まず、題字だ。ここ、重要。形から入るタイプの僕には、ここで全てが決まる。

 ぎゅ、と右手に力を籠め、シャーペンを動かし、

「――あっ! しまった!」

 僕の前世の名前はアルト。アイツの名前はライリ。当然ながら、生まれも育ちも日本ではない。

 二十四年間で身に付いたものは、文字通り生まれ変わっても身に付いたままで、日本語で書かなければならないという概念を基本においてはいるけれど、ついついあの国の文字を書いてしまうときがある。そして、今が、そのときだ。

「まったく……これは日本語で書かなければ意味がないんだから」

 自分で自身に呆れながら、コシコシコシ、と消しゴムで書きかけの文字を消す。消しカスがまとまるタイプの消しゴムなので、時々このまま擦り続ければどこまでまとまるのか、という検証をしたくなる、が、今は文字を書くことが先決だ。

 ――――。

「よし!」

「“アルトを越えて、千里の道も一歩から”」

 上から降ってきた声に、驚きよりもなによりもまず僕は叫んだ。

「忍者かッ!!」

 僕の席は一番前の<窓際>だ。そして今は生物の授業の時間で、この教室には僕以外の<誰もいない>。そんな状況で、僕に一切気配を気取られずに背後に立ったコイツを、一体忍者と呼ばずになんと呼ぶ。

 叫んで振り返った僕は、そこにいるのが誰かなど知っていたけれど、姿を目にした瞬間に、それはそれは大きな音で舌打ちをしてやった。

「チッ」

「少しは隠せよ」

 忍者――大和斉は、呆れたようにそう言った。


 ――to be continued..
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