僕はオトコに生まれたかった。
□僕はウラギリに出遭った。
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嘆いたところで、男になれるわけもなく。
何百回、いや何千回、否何万回も感じた諦めに似た気持ちを抱えながら、とぼとぼと通学路を歩いていた。
十六年オンナとして生きていても、どうにもスカートには慣れない。それ故スカートの下にジャージは必須だ。もちろん校則違反で先生に注意されることもしばしばで、三度は反省文を書かされた。けれどこの僕が、前世からの恋人を諦めていないこの僕が、それしきのことで折れるはずがない。
ということで、高校入学約三カ月目。梅雨も明けかけた六月下旬。ブレザー、スカート、短パンジャージという格好で、水溜りが点々と散らばる通学路を、僕はとぼとぼと歩いていた。
途中、生温かい風が前髪を撫でていき、その不快感に眉を寄せながら、俯かせていた顔を上げた、その刹那――、
――全ての音が止まった。
否、本当に止まったわけではない。
僕の中の感覚が、機能停止したのだ。
耳も、目も、鼻も、脳も、すべて。
「……ぅぁ」
胸が震えた。
声を上げて、泣きだしたくなった。
「嘘……」
生まれてから十六年。僕が講じることのできる手段全てをもって、アイツを探した。探し続けた。それでも、まったく、欠片も、見つからなくて、アイツはもしかしたら生まれ変わっていないんじゃないか、もしかしたら前世で結婚した相手と一緒に居るんじゃないか、僕に会いたくないんじゃないか、探し出されたくないんじゃないか、と思ったこともあった。
けれど、けれどやっと――、
「――ッ、見つけた……ッ」
少し遠くに見える背中。それだけで確かに、アイツだとわかる。
見つけた。
やっと見つけたんだ。
やっと――!
段々段々近づくにつれ、歩調は自然とペースを上げる。
たったったっ、とローファーで地を蹴る音が次第に大きくなり、その音に気付いたらしい目の前の背中がゆっくりとコチラに振り返り、
――嗚呼。
「オマエッ。……何してんだぁぁぁぁッ!!」
「グゥッ……ッ!」
気がつけば、ソイツの鳩尾に足から飛び込んでいた。恐らく人はそれを、跳び蹴りと呼ぶ。
そうして地面に着地した僕はすぐに立ち上がり、無様にも、どしゃあ、と水溜りの中に倒れたソイツの顔を見る。
僕の顔が変わっているのだからもちろんアイツの顔だって変わっているのだけれど、でも、それでも、目の前で呆然としている男がアイツだとわかった。
「お、お前、誰だ!?」
「え……?」
まさか。
まさか僕を、覚えていないのか。
僕を、忘れてしまっているのか。
驚愕をそのままに見つめるけれど、訂正の声は返ってこない。
やっぱりライリは、僕を愛してくれてはいなかったのだろうか。
それとも僕が死んだから、もうそれで終わりだと思ったのか。
結婚できなくても、祝福されなくても、ずっと一緒にいよう、と約束してくれたのは――ウソだったの。
「それでも……」
それでも僕は、それでも
ライリを嫌うことなんてできない僕は、なんて滑稽なんだ。