innocence/guilty

□第4章
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「ぼ、ボクが王女?」
 目を見開くこちらの様子がおかしかったのか、ディアは笑いをかみ殺しながら続けた。
「そうさ、12年前に姿を消した行方知れずのお姫様、それが君さ」
 突然の事態に頭が追いつかなくて必死に状況を整理してみる。つまりこのお城がボクの生まれ故郷だってコトは――
「じゃあお父さんとお母さんは? どこにいるの?」
「居ないよ」
「え……」
「父上は、かつての王は君が殺したんじゃないか」
 ベッドを出かけた身体が止まる。部屋は暖かいはずなのに冷水を浴びせられたかのように寒くなった。ボクが、実のお父さんを、殺した?
「話してあげようか、ルミナス王家の悲劇を」
 優しくこちらの身体をベッドに座らせたディアは、隣に腰掛けるとまるでおとぎ話でもするように言葉をつむぎ始める。
「16年前、この国を治める王と王妃の間に待望のお世継ぎが生まれました。双子のお姫様と王子様、つまり君と僕さ。
 不思議な事に、双子は生まれながらの能力者だった。そのチカラを怖れた王は双子の1歳の誕生日に、とある有名な魔導師に頼み制御装置を作らせたのさ。それがこの腕輪なんだ」
 腕輪は、制御装置だったんだ。だからボクが暴走した時にあんなに熱を発したんだろうか……。
「ところが双子の、特に姉の方のチカラは強くてね、そんな制御装置じゃ抑えられないほどだったのさ。性格も無邪気ゆえに残忍、破壊衝動が楽しくてしょうがないと言った感じだった、半ば狂っていたと言えるだろう。とうとうある日、彼女は父である王を殺してしまったんだ。自分の力を試したかったんだよ」
 ギュッと耳をふさぐのだけど、フシギとディアの言葉が聞こえてきてしまう。
「怒り狂ったお妃は、王女を銀で出来た牢に投獄したんだ。能力者はどうも銀に触れているとチカラを発揮できないようだったからね」
 ハッとしたボクは自分の手首を見る。そこには先ほど細工していた時につけたのか、華奢な銀の鎖がはめられていた。
「この鎖を解いて!」
「まぁまぁ、話の途中だよ。聞きたかったんだろう? 自分が何者なのかを、なぜイムのような田舎に捨てられたのかを」
「……」
 警戒するこちらとは反対に、まるで思い出話でもするように話し続けるディア。
「えぇと、どこまで話したっけ? そうそう、王女が投獄されてから5日目の朝の事だ、驚いたことに彼女は牢からこつ然と姿を消してしまったんだ」
「!」
「銀の檻の中では能力が使えないから、おそらくは外部の者の仕業だったんじゃないかな。とにかく、王女はそれきり行方不明になってしまった」
 まるで他人事のように語る彼は、話を締めくくるように言った。
「娘の復讐を怖れた憐れなる母上は発狂、逃亡。そして残された弟はかいがいしくも一人で王位を継ぐ羽目になったのでした。めでたしめでたし――じゃ、終わらないんだよね、この話は」
「あっ」
 パッとボクの手を掴んだディアは、引き寄せるように視線を合わせる。底の見えない、闇色の瞳。
「さて、ここで問題。逃げ出したはずの姉の能力を感じ取った弟は、彼女をさらいました。彼は何を望んでいるでしょうか?」
 まるで子どもにでも問い掛ける様な口調。だけどそのクイズは簡単じゃ無かった。
「キミの代わりに王位を継がせる……とか?」
「ハズレ。僕はね、別に王様の地位が嫌いな訳じゃ無いんだ。色々と特権もあるしね」
「なら…… っ!?」
 とつぜんディアはボクの首に手を伸ばし、グッと締めつけてくる。くるし……っ
「僕は力が欲しい。他の誰よりも強い力が。誰よりも強いという確証が欲しい」
「や、やめ……っ!」
 酸素を求めてあえぐボクを見て楽しみたかっただけなのか、ディアは唐突に手を緩める。
「ゲホゲホッ! かはっ」
「貪欲に知識を求め、足枷になるものは全て破壊してきた。……その中で唯一倒せなかったのが君さ。ティア・ルミナス」
 ディアは恍惚した表情から一変し、どこか虚しそうな顔をしていた。むせこんでいたボクはその言葉に少したじろく。
「でも、ボク全然強くなんか……」
「そうさ、君と戦う為にわざわざ小細工をしてまで、あの神官から引き離したと言うのに……君は弱くなっていた」
 落胆の色を隠そうともしないその様子に、ボクはレストの村での言葉を思い出す。
 ――もっと昔の戦い方を思いだしなよ、体が覚えているはずだろ?
「僕の願いは今も昔も一つだけ、君と戦いたいってことだけさ。自分より強いものの存在なんか許さない。勝ち逃げなんて許さないよティア」
 ボクの右手を掴んで離さないディアは、狂気の色に染まっているように見えた。
「君を逃がしはしない。寂しい弟の為に、元の強い姉上に戻ってくれるよね?」
 どこかすがるような口調のまま、彼はそっと言った。
「約束したよね? そうしたら、今度こそ君を壊してあげるから」
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