短文

□完結編
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 魔王。それはいつの時代も恐れられ、畏怖の念を抱かれる存在である。

「お〜いワンコー、おつかいいくぞ、荷台引け」
『どこの世界に魔王をロバと同等に扱うヤツがいる!』
「そこはほら、アタシ勇者だし」
『………。』

俺は魔王なのだ。強大な『悪』としての象徴・忌むべき存在…

「ワンコさ〜ん、はやくしないと陽が暮れてしまうですぅ」
「さっさと引けってば …ワンコ?」

そうだ、これは悪夢だ。誰かが俺に見せている現実感の無い夢――

「閃光草薙脚!」
 バシュッ
『ぎゃあっ! っにしやがるロゼ!』
「いや、ボーっとしてるからつい」

突然襲い来る痛みによって、俺の意識は『現実』に引き戻された。
そうだ、夢などではなかったのだ。
俺は負け、勇者の捕虜として自宅につれて帰られた…情けねぇ…

「れ? どうした」
『いや…この辱めは死とやらに値するのかと思ってな』
「?」

まぁいい。今はこうして捕虜の身を演じてはいるが、勇者――ロゼが油断した所を後ろからバッサリやってやる。ふふふ…今に見てろ
さしあたっては協力的に接しないとな

『気にするな。ところで何を買いに行くって? んな荷台まで引いて…』
「ディクスの街まで頼んでおいたものを引き取りに行くですぅ」
「だからアタシたちはおつかいってワケだ」

そっくりな顔を並べて、双子の姉妹は草の丘に寝ころんでいた俺を覗き込んできた。
その後ろにチラチラと見え隠れするのはシャドウのシャト
コイツも一応は魔物ではあるが…妙にロゼに懐いていやがる。まったく魔物としてのプライドはどうした

『で、俺にまで手伝わそうってか』
「当たり前だ。お前仮にも居候の身分だろ〜、こんな時くらい役に立とうって気は無いのか」
『居候…ね』

故意なのかすっとぼけているのか、ロゼはいたって普通の口調でそう言った。
もし前者ならば、相当な腹黒である。

『はいはい、お供させていただきますよ勇者サマ』
「あぁ、そうこなくっちゃな!」
「二人とも早くしやがれーですぅ」



「ディクスかぁ〜懐かしいな、ワンコと会ったのもあの街だっけ」
『そーだな、俺の悪夢の始まった地だな』
「あっ、テメッ」

コイツはあの時、塔を登る前にまるごと破壊したのだ。当然のことながら、その最上階で待ち構えていた俺は落下したのであって…

『っあ゛――!! 思い出すのも腹立たしいぃぃぃい!!』
「何悶えてんだ」
「おねーちゃん、おねーちゃん。ワンコさんがこの街に入るのはちょっと問題が無いですか?」
『あ?』
「そうだな、この凶悪なツラは誤解を招きそうだ」
 グニグニ
『頬を伸ばすなコラ』
「そうじゃないですぅ」

少し前方を歩いていたロミはくるりと振り返ると、俺に向けて愛用の杖を指す。

「ワンコさんはディクスで子供誘拐をやらかしたのですから、入ったら袋叩きですぅ」
『あー、そういうことか』
「よし! そういうことならアタシに任せとけっ」

自信満々に【無い胸】を叩いたロゼは

「どっせー!!」
 バガン!
『ぎゃあ!?』
「失礼な事かんがえるなよ」
「人のモノローグを読むな! PSI使いかお前はっ」
「やりなおし やりなおし」

ったく…
自信満々に胸を叩いたロゼは、なにやら懐から怪しげなペンを取り出した。

「この白い毛が目立つからいけないんだろ? ベタ塗りしよーぜー♪」
『わーい、 ふ ざ け る な 』



「だいたい、顔出しづらいのはお前も一緒だろーがっ」
「アタシはよし! なんせ勇者だからな!」
「とりあえずそのペンをしまえ!」
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