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□頂き物 もじ
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癒雨様からの『ひねくれ師匠と偽りの恋人』の二次創作です。

※癒雨様のオリキャラが出ます
※本編との設定とは異なる点があります
※IF世界の一つだと了承した上でお読みください

※軽いですが性描写がありますので18禁です←重要




ひねくれ師匠と偽りの恋人(フェイクラヴァーズ)二次創作。原作者:紗雪ロカ


「ニッちゃん、これグリンディエダせんせーに届けといて〜」
ユーナ様に渡されたのは、A4サイズが丁度入りそうなサイズの箱だった。
うん、これが終わったら行けそう。
「分かりました!あと10分ぐらいかかるんですが、その後でもいいですか?」
「うん、良いよ〜。それと、持ってかえって欲しい物があるから、こうちょーに出来てるか聞いてみて。未だでも、2、3日後には出来るはずだからその後持って帰って来て〜。支度もあるだろうし、渡すのは今日中で良いから。」
「分かりました。」
受け取ったそれは、思っていたより重みがあった。何が入ってるんだろう。資料の束みたいなものだろうか。


***

数日分の着替えを入れた荷物を持って例のポータルで天界から学校へ向かい、着いたのは夕方のおやつの時間を少し回った所だった。
「ニチカさん、ご苦労様。」
最近仕事漬けだったので、グリンディエダ校長に会うのも酷く久しぶりな気がする。
「お元気そうで何よりです!」
「えぇ、あなたも。どうぞ座って、今お茶を淹れますから。」
その時、校長室の重厚なはずのドアがバーン!とけたたましい音を立てて開いた。
「ニチカ!!」
「メリッサ!!アンジェリカ!!」
「ニチカ様!お会いしとう御座いましたわ!!」
入って来たのは、メリッサとアンジェリカ、清楚で儚げな美少女だった。アンジェリカとはまた違うタイプで人目を惹く。
「久しぶり!元気だった?…そちらの方は?」
「新しい友達よ!転校生でなかなか馴染めないみたいだったから声を掛けたの!ニチカにも紹介しようと思って。」
「初めまして、ニチカ様。…私、リリィと申します…あの、どうかお見知り置きを。」
「ニチカよ!宜しくね!」
人見知りな様子で、か細い声で挨拶するリリィに安心して欲しくて、なるべく明るい声で右手を差し出した。


***


グリンディエダ校長は、人数分のお茶を淹れてくれた後で部屋を用意すると言って席を外した。ユーナ様に届ける予定の物は未だ出来ていないらしい。
「ねぇニチカ、例の彼とは進展あったの?」
頬張っていた焼き菓子を吹き出すのを何とか堪える。
「…最近は忙しくて、あまり会えなくて…」
ここ1ヶ月程、オズワルドは新しい魔女道具の研究中らしく森の家に引きこもっており、製作過程が漏れるのを怖れて誰も近づけ無い状態になっていた。
必要なものはシャルロッテさんが届けてるみたいだけど…
『オズちゃんったら、私でも中には入れてくれないの!外で荷物の受け渡しをするか、ひどい時はドアの前に必要なものだけ置いてあるの!』
例の飴玉を届けてもらった時にそう言って憤慨していたのを思い出す。
週に一度様子を見に行っているが、外で数分話をして帰るだけの日々が続いている。
私は魔導なら未だしも、魔女の腕はからきし、とは思いたくないが、師匠の研究の手伝いが出来る程ではない。行っても邪魔になるだけだ。少しだけでも会えるだけマシだと思わないと…
「会えないと心配ですし、寂しいですわよね。」
「うん、本当に今は忙しいだけだから、落ち着いたらまた会えるようになるよ」
「そっか…私達の前では、辛いときは無理しないで言ってよ?いつでも聞くからね!」
「うん、ありがとう!」
「そうですわ!それでは、親睦会も兼ねて、大通りに新しく出来たカフェに行きませんこと?それと、アロマオイルのハンドマッサージのお店で気になってる所がありますの!」
「それって、エステの事?」
「…えすてが何かは存じ上げませんが…そのお店ってお肌がツルツルスベスベになるって噂の…爪の先まで綺麗に磨いて下さるとか。あの、一度行ってみたかったんです…」
リリィとアンジェリカが目をキラキラさせている。
「こうなったら行くしか無いわね。良い?ニチカ」
「良いよ!せっかくだし、とことん楽しもう!カフェの方は、何が有名なの?」
「えぇっと、コーヒーの泡で絵を描いてくれたり、三枚重ねのパンケーキにホイップとチョコで絵や文字を描いてくれるの!」
「素敵…」
リリィは白い肌を上気させて顔の前で手を組み合わせている。何これ、可愛い。
「ついでにウインドウショッピングもしませんこと?実は私、気になってる服が有りますの!」
「あの、こっちの流行り…教えてください。」
なんだか、いつも周りを振り回すアンジェリカがリリィのお姉さんのようだ。
「ニチカ、荷物貸して!部屋に運ぶように言っとくから。」
「うん、ありがとう、メリッサ!」
メリッサはやっぱりさり気なく気を回す。
「では、早速出かけましょう!」
皆の気遣いが酷く胸に染みた。よし、思いっきり楽しもう!


***


「最高でしたわね〜!!全身スベスベですわ〜。」
お茶を頂いたばかりだったので、先にエステ?のお店に行って来たのだ。
アロマオイルも数種類から香りと効能を選んでブレンドしてくれる。保湿や美白、アンチエイジングなどが有り、香りには鎮静やリラックス効果も有る。マッサージにより代謝を良くしてくれてデトックス効果もあり、通えば部分痩せも可能で凹凸のはっきりした身体になる事も出来るらしい。
「でも良かったの、アンジェリカ?視察だからって私達の分まで出して貰っちゃって」
しかも全身フルコースでネイルまでして貰った。値段もバカにならないはずである。
「良いんですのよ!同じ業種で出店するにしても、オリジナリティが必要ですもの。これ以上のものを提供するにはなるべく多角的な意見が必要ですわ。」
カフェに向かいながら意見し合う。夕食に響きそうだから、パンケーキはやめとこう。
「あれ?ニチカちゃん?」
この声は…
「ラン君?久しぶり!こんなところで会うなんて奇遇だね!お花屋さんに用事?」
急いでいるのか、少し慌てた様子だ。
「いや、ちょっと知り合いに頼まれて…そんなことより、ニチカちゃんは今日はオフ?
そっちはお友達?」
帰りのお届けもの待ちをしている顛末を説明し終えると、一通り自己紹介をした。
「ラン君何か急いでた?ごめんね、引き留めて。」
「いや、ちょうど終わったとこなんでオレは大丈夫だよ。明日グリンディエダ先生に呼ばれてるから、今日夜は学校に泊まるんだ。」
「そうなんだ!」
「あ、あああの!ランバール様、風の里の半精霊様の、あのランバール様ですか…!?」
「あ、ああ、そうっスけど。」
リリィが頬を赤らめてぷるぷる震えている。
「あ、あの!!大好きです!!あのあの、えっと、ファンなんです!お会い出来て嬉しいです!!握手して下さい…。」
キラキラした瞳でラン君を必死に見上げる。あのラン君が少したじろいで、強引に握った手をブンブンと上下に振る彼女を見ている。
一体どうしちゃったんだ、リリィ。


***


「はぁぁぁぁ…」
大きくため息一つ。
「ゴメン、ニッちゃん!」
パンッ!と両手を合わせてラン君が項垂れる。
「よりによって、なんで私を恋人役にするの…」
あの後、リリィに恋人は居るのかと聞かれたラン君は、私の手を取って『実は付き合ってるんだ、ゴメンね』と言ったのだ。
しかも、事もあろうにそのまま手を引いて逃げ出した。そしてここに至るわけだ。
メリッサとアンジェリカも何故か黄色い声援を送ってきたし、もう意味が分からない。
何て誤解を解いたものか…。
「センパイとの事知ってる友達の前でもああ言ったのは悪かったよ。後でオレから訂正して謝っとくから…。
ゴメン、オレ、本当にああいう風に来られるの苦手で…なんていうか、どうして良いか分からなくて…今まで正面切って好きだとかファンだとか言われた事ないし一体オレの何を見て…。」
最後の方は一人でブツブツと言っている。
「リリィは勇気出して伝えたのに、あんな嘘ついて逃げて、絶対傷ついてるよ!ラン君だって、リリィの事知らない訳だし、避けたり嫌ったりするのは知ってからでも良いんじゃない?」
「嫌ってる訳ではないけど…。」
真っ直ぐな深緑の瞳。
「オレには好きな人が居るからね…。」
ランバールが次の言葉を紡ごうと口を開きかけたその時…分厚い本がその頭を直撃した。
「ランバール、お前は暇なのか?」
「オズワルド!!」
「痛いっ!その厚みと重さ、もう鈍器ッスよ!殺意を感じるなぁっ!…センパイの方こそもう終わったんッスか、『研究』の方は?」
涙目で抗議するラン君。一体何を言いかけたんだろう。
一瞬疑問に思ったものの、久しぶりに会ったオズワルドに全てがどうでも良くなる。泣き出したいような懐かしさと、やっと会えた喜びが溶けて混ざり合う。
「…どうして、ここに?」
「こいつの納品先がこの街の教会だからな。」
手のひらに収まるサイズの箱が二つ。
両手には痛々しく包帯が巻かれていた。
「ずっとそれを作ってたの?」
「ああ、他にもしないといけない事があって、それはシャルに頼んで分担を振り分けて貰った。」
何故私には何も言ってくれないのだろう。若干もやっとしたものを抱えつつも、それよりも気になることを聞いて見た。
「どうしたの、その手!包帯だらけじゃない!」
「大したことはない。手当てもしてある。」
そうやっていつも無理をするのだ、この人は。
師匠の手を取って、ギュッと握る。
「いっ…!お前な!!」
いつものデコピンが…今日は来ない。
ギュッとつむっていた目に唇を落とされる。
「お仕置きの時間だ。」


***



「もーいーっスよ!やってられっかってんだ!」
『…邪魔者は消えろ。』
ランバールにだけ聞こえるように、すれ違い様に囁くと、見せつけるようにニチカに口付け、そのまま人目も憚らず攻め立て始めた。始めは恥じらって嫌がる素振りを見せたニチカも、深く浅く繰り返される口付けに陶然となってそれから…
「あぁ、もぅ…」
1ヶ月近くほったらかしにしてるのを知っていた。ニチカが無理に明るく振る舞っている事も。
「ラストチャンスだと思ったのになぁ」
テラスから回廊を通って階段に続く扉を開け…
「うわあぁぁぁあぁ!!?!」
「きゃぁあぁぁあ!!」
び…っくりした!!
「君達…は、まさか」
そこに居たのは、例のニチカの友達3人組だった。
「な、何も見てないですわ!!」
「そ、そうよ、あんな熱烈な…」
「…あ、あの、寝取られ…むぐっ」
リリィが途中でメリッサに口を塞がれる。
「…悪かった。オレが悪かったから、話聞いてくれる?」
オレは小さく、物凄く深いため息をついた。


***


翌日、オズワルドの部屋で目覚めたニチカは肌蹴た寝間着をかきあわせた。
あのまま部屋に連れて行かれそうになったので、お風呂に入りたいと言ったのだ。そのまま眠れる格好でオズワルドの部屋に行く約束をしていたのだが、いざ覚悟をして部屋に行くと、当人は眠りこけていた。
1ヶ月もこもって何か作っていたのだ。
よっぽど難しい物を作っていたに違いない 。さぞ、神経を擦り減らした事だろう。
「お休みなさい」
月光に照らされた綺麗な寝顔。その頬にかかる黒髪をそっとなぞり掬う。そこに小さく口付けると、ベッドの隣に潜り込んだ。
そのまま、人肌の温もりが心地良くて寝入ってしまったのだ。
「やっと起きたか。」
いつもの憎まれ口が愛しい。
「オズワルドだって、昨日呼んでおいて先に寝てたじゃない!」
いつもなら言い返してくる師匠が、今日は無言だ。何か考え事をしている。
「師匠?」
「ああ、嫌、何か言ったか?」
「ううん、何でもないよ。どうしたの?ぼーっとして。」
「今日も仕事が詰まっていてな。シャルに采配を頼んだ分の報告を受ける予定だ。」
「じゃあ、シャルロッテさん今日ここに来るのね!」
「ああ、そういえばあいつ、お前の友達の、確かメリッサとかいう奴にも用があるって言ってたぞ。
こっちの話は込み合って長くなるし、そっちで一緒に会ったらどうだ?」
商談で聞かれたくない事でも有るのだろうか?
首を傾げながらも、そうすることにした。


***


予定を聞かなければならないので、自分の部屋で身支度をするとメリッサの部屋に向かった。
「…うわあぁぁあぁ!!」
なんだか、遠くからよく知った声が聞こえ…こっちに来る!!
「うおっ!ニチカちゃん!!」
「ラン君!と、リリィ!?」
昨日の事で、ラン君に少し怒ってるのと、キスを見られた事と、リリィに気まずいのがごっちゃになって赤くなったり青くなったりしていると、
「…ランバール様ったら酷いです。私の顔を見た途端逃げ出すなんて…」
あまり表情が変わらないので分かり難いが、どうやら怒っているようだ。
「お、追いかけるから逃げるんだよ!」
「…逃げるから追いかけるのです!」
いつもよりは、いくらか口調もはっきりしている。頑張れ!
「…どうして逃げるのですか?私、何かしましたか?…悪い所は直します。
だから、普通にお話して欲しい、です…。」
さすがにラン君も悪かったと思ったみたいだ。
「ごめん。オレは君が思ってる様な人間ではないと思う。今迄に沢山の罪を犯した人間だ。そんな綺麗な瞳で見つめられて良いような人間じゃない。きっとそのうち幻滅すると思う。
それでも良いのなら、ファンとかじゃなくて、普通に友達としてから始めて欲しい。」
「…はい!!」
初めて見たリリィの少し泣きそうな笑顔は…女の私でもドキっとするぐらい、とにかくめちゃくちゃ綺麗だった。

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