短文

□メモ帳
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注:過去拍手の再録です。
お題は『夏休みの宿題』パラレルです

***

 ちりんちりん
「むぅ〜…」
 涼しい風が通る開放感抜群の座敷。その上をころころと転がりながら小学3年生のりおんはうなりました
「自由研究、かぁ」
 頬にタタミの跡がついている彼女は扇風機の前まで転がるとそこでピタリと静止します
「あ゛ぁぁぁぁ〜 どーしよーかな゛ぁぁぁぁ」
 子供時代なら誰でもやったことのある『扇風機の前であ゛〜』の響きを十分に堪能しながら回想を始めるりおん。完全にダレきっていました

『では夏休みだからと言って怠けないように。わかりましたか?』
『『は〜い!』』
 えくす先生は夏休みの過ごし方について述べたあと、付け足します
『あ、ちなみに宿題をやってこない人は…ふふふ』
『『…!?』』
 黒い笑みが見え隠れする様子に教室の温度は2〜3℃下がったようです
『わかりましたね? いづきくん』
『なんでオレにだけ言うんだよっ』
『いづきくんをいじめたら許しませんことよ!』
『如月先生、自分の教室にお戻り下さい』

「ん〜自由研究…て、何?」
 絵日記やラジオ体操なら分かりやすいのですが【自由研究】なるものは初めてです。何をすれば良いのかいまいちピンとこないりおんでした。
「みんなの様子を見に行こうかな?」


「だいたい自由って言ってるんだから何したって良いんだろ!?」
「あ! きんぎょちゃんだ」
 田んぼのあぜ道を歩いていたりおんはよく通る声のする方向へと駆けて行きました。
「よぉ、りおん」
「おいコイツ止めてくれ」
 必死にきんぎょを抑えているのは同じくクラスメイトのとうやくんでした。
「どーしたの?」
「自由研究だとか称しておっそろしい生物実験を始める気だ」
 見ればきんぎょは田んぼの中に怪しい紫色の液体を流しいれようとしているところでした
「やめろー!!」
「私はただ単に魔女から貰ったクスリを実験してるだけだ!」
「それがいけないっつってんだろーが!」
 もくもくもく…
 田んぼが紫になっていくにつれ、すくすくと健康的に育っていた稲は毒々しいピンクへと染まっていきます。いまやりおんたちの背丈を軽く越しています。
「成功だ!」
「人食い草になってんじゃねーかァァァ!!」
「うわぁっ!」
 牙をむき出しに襲ってくる人食い草。逃げるようにしてその場を去ったりおんの肩を人食い草がかすめました。


「はぁ…はぁ…自由研究ってスリルに満ちてるんだ…」
 なんとか逃げ切ったりおんは川辺の石に腰かけました。汗をぬぐいながら一息とばかりにサンダルを脱いで川のせせらぎに足をつけました
「うわぁ冷たい〜」
 キラキラと反射してまぶしい水の中を小魚が流れていきます。
「夏だなぁ…」
 しみじみと夏を味わっていたりおんは橋の上から声をかけられました
「りおんちゃんではないですかぁ?」
「ん?」
 見上げればひとつ下の学年のろみが橋の欄干から乗り出して手を振っていました。
「ろみちゃん! ひとり?」
「ううん、お姉ちゃんはこっちで自由研究をやってるですぅ」
 ろみは橋の反対側を指しながらそう答えます。
「なにをやってるんだろ?」
 疑問を感じつつも橋の向こう側へと移動するりおん。橋をくぐり見上げたと同時に、なにか白い物がにゅっと降りてきました
「へ?」
「ちょっとりおん! ジャマジャマ」
 クラスメイトのろぜは、白い大きな犬を釣りざおの先にくくりつけて垂らしていたのでした。
「ろぜちゃんは何にするの?」
「川で釣れる生物を調べようと思ってさぁ」
 ちゃぽん
 無邪気な笑顔で犬を川底へと沈めるろぜ。そこにろみが付け足します
「やっぱり撒き餌として切り刻んでから使うべきだったですぅ」
「てめぇら…しまいにゃ噛みころ がぽっ」
「マグロかかんないかしら」
「釣れると良いね〜」


 釣りに興じる姉妹に別れを告げ、りおんは神社の境内へと来ました。そろそろヒグラシが鳴き始める時刻です
「結局よく分からないままだなぁ」
 カナカナカナカナ…
 石段に腰かけ、ぼーっとするまま暮れていく夕日を見つめていると…
「? なにやってんだお前」
「いづきくん」
 神社の前を通りかかったのはガキ大将のいづきでした。
「キミこそなにしてるの?」
 たしかに尋ねたくなるような格好でした。肩には数本の細身の竹をかつぎ、左手には植木鉢を抱えています
「自由研究」
「…そのカッコが?」
「違う! アサガオとかで済ませた方がラクだろ」
「育てたの持ってくの?」
「アサガオの観察だよ、ほっときゃ育つだろうし」
 イマイチよくわかっていなかったりおんは自由研究とは何たるかをようやく教えて貰いました。
「そっか〜、自分がやりたい事を研究すれば良いんだねっ」
「あぁ」
「じゃあボクもアサガオの観察にしようかな、ありがとう!」
「あぁ、まぁがんばれよ」


 そして 9/1
「さて、それでは宿題を提出してもらいましょうか。まずはきんぎょさん」
「へーい 私は水稲が人食い草になるまでと実際に人肉を与えた結果を観察しました」
「それは素晴らしいですね。ところでとうやくんはどうしました?」
「さぁ? 近ごろ見ないです」
 きんぎょの模造紙にはとうやの××な写真が写っていました
「次はろぜさん」
「はい! 私は川に住む生物を調べました!」
 レポートの中にはどうみてもシロナガスクジラとしか思えないイラストが載っていました。
「エサは何を使ったのか大変気になりますね。次、いづきくん」
「………」
「…まさか、忘れたのですか?」
「違うっ! なんでだか1つも芽が出なくて―」
「やってこなかったのですね?」
「う、うわぁぁぁあ!!!」
 廊下に長く尾をひく悲鳴が響き渡りました。

「どうしてお前のアサガオは満開になったんだっ!」
「さ…さぁ?」

***

あとがき。

宿題はお早めに。

今回のテーマ『ボクのなつやすみ』
のすたるじっくな日本の田舎を…ただえにぃの自宅周辺を描写しただけですが
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