短文

□その時の話-旅立ちの前に-(ig短編)
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もうどれだけこうしているんだろう…
目の前に転がるオレの両親は、すでに息をしていない。いや、すでに人の形をしていないと言った方が正しい。
オヤジの身体は四肢が全て切断され、母さんは首だけになってオレの方を向いている。
なんだこの光景は、どうして…
「……」
先ほどから無意識の内に握りしめていた物を見つめる。
白く輝くそれは巨大なケモノの牙。美しいとさえ言えるそれには、ベッタリと赤い血が付着していた。自分自身にも流れる赤い血が。
「ひっ!!」
慌てて牙を投げ捨てる。部屋の向こう側へと飛んで行った凶器は、カラカラと回転して止まった。
「ぐっ…」
こみ上げてきた物を盛大にぶちまける。それを確認する間もなく、オレは意識を失った。


次に目を覚ましたとき、自分がどこに居るのかすぐにはわからなかった。
白いシーツに清潔なベッド、すぐ左手にある窓にはレースのカーテンがかけられ、柔らかい風に吹かれてなびいている。
「イヅキくん、起きた?」
ガチャリと音がして、ドアが開いた。
おぼんを手に入ってきた幼なじみは、そばに来ると額に乗っていたタオルを濡らして冷やしてくれた。
「まだ起きなくていいよ、熱が完全には下がりきってないから、十分な休息を取りなさいってお医者さまが言ってたわ」
「オレ、何日寝てたんだ?」
「二日よ」
「父さんと、母さんは…」
そう聞くと、セシリアはピクリと手を止め、ほとんど聞こえないくらいの声で言った。
「村の共同墓地に…」
「…そうか」
覚悟はしていた。意識を失う前にみたあの状態では、とうに助からないことはわかっていたんだ。
沈黙を破るようにして、幼なじみはパッと顔をあげた。
「あのっ、あのね! イヅキくんさえよければ、ずっとずっと家に居てくれて構わないのよ! お母さんもそう言ってくれてるの」
「そんな迷惑かけられない…」
「もうっ、そんなこと言わないのっ、イヅキくん家がこの村に越してきた時から、ずっとお隣さん同士で仲良くやってきたじゃない!」
やさしく手をとった彼女は、にっこり微笑んで言った。
「もう、あなたは家族同然なんだから」
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