innocence/guilty

□第6章
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「それで次の目的地ですが……」
 森の中。ボクの横を歩いて居たエクスは大きな木で分かれた道で立ち止まった。
「右に行くとノースミレット。左に行くとサウスミレットです」
「? 同じ街じゃ無いの?」
 ノース(北)とサウス(南)……だよね?
「ミレット地区は山で分断されてるんだよ、イムとレストみたいにな」
 ボクの頭の中をグルグルと地形図が回る。なるほど
「へぇ〜、で、どっちに行くの?」
「山を越える連絡船が出ているので、どちらに行っても大丈夫なのですが」
「山なのに、船?」
 船って、水に浮かべるものだよね? するとエクスは、とんでもないコトを言った。
「船は船でも、飛行船なんです。空を飛ぶんですよ」
「空を!?」
 ビックリしておもわず変な声をあげてしまう。空を飛ぶのは、よっぽど腕の良い魔導師さんか、ボクみたいに能力者じゃなきゃできない芸当だったから。
「ミレット地区は昔から風の精霊に祝福された地でして、住民全員が生まれた時から風を操れる天然魔導師の街なんです。数人いれば飛行船を飛ばすのくらいわけないんですよ」
「ふぇぇ……」
 世の中にはそんな場所があるんだ。旅に出て色んなものを見てきたケド、まだまだ知らないコトがいっぱいあるんだろうなぁ。
 色んな思いを抱えていると、横で話を聞いていたイヅキがハァッとため息をついた。
「どっちでも良いから、とにかく歩こうぜ。このままじゃまた今夜も野宿だなんて事に――」
 ところが言いかけた不満は、突然辺りに響いた鋭い悲鳴に掻き消された。
「!!」
「今のは……?」
 ボクの発したものじゃない。そしてもちろん二人が発した声でもない。じゃあ一体ダレが?
 声の発生源へとボク達は茂みの中に入り込んでいった。すると……
「ヤダっ! 触るんじゃ無いわよこの腐れ納豆!!」
 そこには一人の女のコが数体のゾンビに襲われているところだった。ズルズルとか、グチャグチャと言った言葉を連想させるそのマモノたちは、女のコに向かってゆっくりとキョリを縮めていく。
「近寄んないでよ!!」
『ゲヘヘヘへ、いけないよぉ。子どもがこんな所に一人でいるなんて』
 どこか水気を含んだような、けれどもハッキリと理解できる声に、ボクは目を見開く。
「しゃべった!?」
「人語を話すマモノ……突然変異種でしょうか?」
 冷静に様子を観察していたエクスがサラリと言う。ゾンビたちは両腕を高く上げ、彼女に迫っていく。
『そう言う悪い子は、食べておしおきしないとねぇぇ!』
「ひっ……!」
 このままじゃいけない!
 ビクッと身体を縮こまらせた女のコの方を指差して、ボクは勇ましく言った。
 ビシッ
「行けっイヅキ!」
「って、オレかよっ!」
「そうだよ、女の子が絡まれてるのを見過ごすつもり?」
「あんなザコ、お前でも十分追っ払えるだろ。めんどくせぇ」
「ひどっ!」
 こちらでごちゃごちゃ言ってたのが聞こえてしまったのか、ゾンビの内の一体がこちらを向いた。
『おい見ろよ、また若い女だぜ。ちっこいガキも一緒だ』
 エクスは『ちっこい』って単語に一瞬ピクッと反応したケド、さすがだ……なんともない様な平然と涼しい顔をしていた。
『そっちの男は不味そうだな』
『あぁ不味そうだ』
『不味そう不味そう』
 ここまで声を揃えて言われる程、ゾンビから見たイヅキって不味そうなんだろうか?
「……リオン、哀れみのこもった眼で見るな」
「や、ヤダなぁ、そんな眼してないって」
 別にゾンビに美味しそうだなんて言われてもちっとも嬉しくないよね。そんなコトを考えていると、ヒソヒソと何やらゾンビたちは相談を始めた。
『そこの男は腐らせて仲間にしようか』
『いやいや、なんだか弱そうだ』
 ピキッ
 あ……なんか隣から音がした。
『弱そうなクセにいっちょ前に剣持ってるぜ』
『奪え奪え!』
 黙って聞いてた『弱そうな男』のコメカミに段々とアオスジが増えて行く。イヅキも結構、挑発に乗せやすいタイプだよね……
 ここでマモノは声を合わせて元気よく言った。
『『バーカ』』
 ダンッ!
 急にイヅキは剣を外し、地面に突き刺す。
「だぁれが弱そうだってぇ〜?」
 そして指をべきゃぼき鳴らしながら近付いて行く。その横顔はブキミな引きつり笑いで固まっていた。
「てめぇらなんざ剣使うまでもねぇ……覚悟しろ死に損いどもがぁっ!!」
『うわぁい怒った怒った! 逃げろー!』
「待ちやがれクソガキぃっ!!」
 鬼の形相で突っ込んで行くイヅキとクモの子を散らす騒ぎで逃げて行くゾンビたち。彼らは森の木々たちを蹴散らす勢いでどこかへ行ってしまった。
「えーっと、大丈夫?」
 とりあえずボクは座り込んで居る女のコに声を掛けるのだが
「…………けた」
「?」
 なにやらブツブツ言ったまま顔を上げない。少しだけ心配になって、そばにしゃがんで尋ねてみる。
「ねぇ、キミどうしたの?」
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