innocence/guilty

□第5章
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「あのさ、これからボク達どこに向かえばいいのかなぁ?」
 ルアンから歩き出してしばらくしたところで、ボクは振り返って聞いてみた。3人とも考え込んでしまったが、急に思い出したかの様にイヅキがふと視線をエクスに移す。
「そーいやお前、あの塔でディアを倒すには情報が必要とか言って無かったか?」
「情報?」
「えぇ、ディアが能力を奪って自分の物にしてしまうのは知ってますね?」
「うん、ボクのも盗られそうになったから……」
「リオンさんは未遂で済みましたが、あなた以外にも何らかの能力を奪われた人がいるはずです。そうで無ければディアの能力は全くの無力ですから。」
「情報…ってのは奪われた能力の種類か?」
 イヅキの言葉に、エクスは目元を細めて笑みを作って見せた。
「その通りです、何の能力かさえ判れば何かしら手立てを打てる筈ですから」
「なるほどなぁ」
 確かに戦う度に未知の能力を発動されたんじゃ絶対に勝てないもんね。
「後は経験値を稼ぐ事でしょう」
「ならオレ達の目的地は『強くなれて尚かつ能力者が居そうな街』…か」
「……」
「……」
「……心当たり、ある?」
「無いです、俺は」
「ボクなんて村から出たことすら無いよ」
「んなら、とりあえず最寄りの街まで行ってみるか」
 んーっと伸びをしたイヅキは、方位磁石をチラッと見て歩き出した。
「最寄り……と言うとギヤグースの街ですね」
「ギヤグース?」
 聞き覚えのナイ名前にとまどっていると、エクスは優しく説明してくれた。
「ここから北の方角にある海に面した街です。工業が主要でしたね、確か」
「よしっ! じゃあそこを目指そう!」
 先程から何も意見できなかったボクは張り切って駆け出そうとするのだケド
「意気込むのは結構だが、道がどこだか知ってんのか?」
「うっ……」
 その気を見事に粉砕させてくれるイヅキだった。

***

 俺は何の為に此処に居るのか。横倒しになった古木の上に座り込みながら、ぼんやりとそんな事を考える。
「だから最後に作ったのはボクだってば!」
「いーや! オレだった! お前いよいよ脳味噌がとろけて来たんじゃねぇのか!?」
 もちろん、ある目的の為に二人に付いて来て居るだけだ。この、今まさに目の前で『最後の食事当番がどちらだったか』を言い争っている二人の。
「だいたいボクが作る料理は物体Xになるんだから!」
「喰えりゃいいんだよ、喰えりゃ」
 が
「ふぅーん、そう言ってこないだ作ったものに散々ケチ付けてくれたよねぇ?」
「あれは今まで食べた事の無い味がしたから……てかまともな食材をどうやったらあそこまで変えられるんだよ!? 生命の危機を感じたんだぞオレはっ!」
 これではあまりにも
「キミだってアウルベアの皮剥いで食べようとしたクセにー」
「人間その気になれば何でも喰えるんだ!」
 ……耐え難い。
「もう! いいかげんにして下さいよ二人共! 食事なら俺が作りますからっ」
 ついに我慢の限界に達した俺が一喝して黙らせると、二人はそろってなんとも珍妙な面持ちになった。
「お前が? 料理?」
「アウルベアの肉よりマシです」
 冷やかに言い放つと、彼等は急に憑物が落ちた様にしんとなった。
「ゴメン、大人げなかったよね」
「ちゃんと順番が来たら作るから……悪かった」
「まったく……」
 小言を言いながら魔法で薪に火を入れる、俺はあなた達の母親じゃ無いんですから。

 数十分後、一行は多少の野菜の切れっぱしが浮かんだ簡単なスープと、ルアンから持ち出して来たパンで遅めの昼食を取っていた。
 普段は固形の携帯食料があるのだが、何があるか分からない旅の事だ。ナマモノから消費した方が良い。それに、あれはモソモソしていて、あまり好きではない。
「ひょれにひへも」
「ちゃんと飲み込んでから喋れ、バカたれ」
 ごっくん、とパンを飲み込んだリオンさんが空を見上げながらぼんやりと言う。
「それにしても、まだ着かないのかなぁ? ルアンを出発してもう3日目だよ?」
「磁場等も狂っていないようですから、このまま何事も無ければあと数時間もあれば辿り着ける筈です」
「何事も無ければ……だけどな」
 イヅキさんが木のスプーンを咥えながら辺りに鋭い視線を配る。その先には鼻息荒いマモノが闘志満々で茂みから出てきた。
 ――ブモッ
「食事の前に出てきて欲しかったな」
 彼は立ち上がって剣を構えながら薄く唇を吊り上げる。まさか食べるつもりじゃないでしょうね。
 ――キュイィィン!
 バッ
「えっ? あーっ! ボクのパン!」
「ボーアと……イグルスですかね、あれは?」
「やったなぁ〜??」
 昼食を掠め取られてしまったリオンさんは、ぴょいっと立ち上がると、高い雄叫びを挙げて勝ち誇った様に頭上を旋回しているマモノに狙いを合わせた。
「返せ――っ!!」
 意思とは関係無く引きずり下ろされるマモノ。食べ物の怨みは恐ろしいものだとしみじみ感じる俺は、スープをズズッとすする。
 パシッ
 ――ブモォ〜
 落ちてきたパンをリオンさんがキャッチするのと、イヅキさんがボーアに止どめを刺したのはほぼ同時だった。
「また異種編成かよ……」
 何事も無かった様に再び食べ始める彼の言うとおり、ここ最近のマモノたちの動向は妙なところがあった。以前はこんなに頻繁に襲ってくることは無かったはずなのだが。
「うーん、空のマモノと飛べないマモノが組んでるってのもヘンだよね」
「何か、自然の物が狂って来ているのかもしれません」
 俺はそう言ったのだが、イヅキさんはあまり興味なさげにパンを頬張っただけだった。
「ま、向かって来たら倒せばいいだけの事だろ。オレらには関係の無い話だ」
「だと良いんだケド……」
 辺りには不安そうに空を見上げるリオンさんの声だけが残った。
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