innocence/guilty

□第3章
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 ルアンの見上げるほど大きい城壁に、ボクは思わず上を見上げてため息を漏らした。
「おっきい……」
「口を閉じろって、アホ面さらしてんじゃねぇよ」
 隣に居たイヅキがため息をついて「田舎モンはこれだから」と小さく付け足す。ボクは少しムッとして、仁王立ちをしながら睨みつけた。
「なにさ、キミだって似たようなもんじゃないか、それよりさっきからそわそわしちゃってどうしたの?」
「えっ、ち、違っ。オレは――」
 そわそわって言うのは、自分の剣を外して、まるで周りの視線から隠すようにしっかりと抱いていたのだ。その怪しさ満点の動きはやけに目立ったらしく門のところに居たおじさんがツカツカと歩み寄ってきた。
「おいおめーら。通行手続きはしたのか?」
「あ、まだです」
 小さくゲッと呟いたイヅキは、ボクの後ろにコソコソと隠れる。何なんだよもう。
 門番のおじさんもその様子を妙に思ったらしく、こんな事を言い出した。
「……兄さん、怪しいな。何か危険なモンでも持ち込むつもりじゃねーだろうな。爆弾とか魔獣とか」
「爆弾!? まさかキミ自身が爆発したり――」
「んなワケあるかぁっ!」
 思わずツッコミを入れたイヅキの手から、剣がカチャッと落ちる。布が外れて刃こぼれした刀身があらわになり、それを見た門番さんはニヤニヤと笑いながらこう言った。
「なァるほど、確かに『危険物』ではなかったな。こりゃ失敬」
「……」
 黙り込むイヅキは無言で門番さんの笑いに耐えていた。
 あ、そっか。武器の手入れもできないような旅人だと思われるのがイヤで、剣を隠そうとしていたんだ。やれやれ、ヘンなところでカッコつけなんだから。
「ガハハハハ、ま、この街には優秀な研ぎ屋があるからなァ。存分に研いでもらえ」
「良いから早く通行の手続きをしろよっ、職務怠慢だぞ!」
 なおも笑う門番さんに案内され、ボクたちは手続き所で簡単な審査を受けて必要事項を書き込む。さすが首都、警備もしっかりしてるんだね。

「ったく、余計な時間くっちまった」
 ブツクサと言うイヅキだったケド、それでも30分ほどで中に入ることができ、ボクたちはお城へとまっすぐ続くメインストリートを並んで歩いていた。
 ルアンは正面に大きなお城があり、そこの前部分をだーっと伸ばしたようにお店や家が広がる城下町だ。あれだけ頑丈な城壁を設置しているから中もお堅いのかと思っていたけど、賑やかな市場や子供のためのお祭りなどをやっていて、とても栄えているようだった。
 風船を持った子供が走り抜けていくのを見送っていると、イヅキがふぅっと気合を入れるように深呼吸をした。
「さてと」
「どっか行くの?」
「コイツを研いでもらいにな」
 そう言ってポンポンと剣の柄を叩く、一転して暗い表情になるとどこかブキミな薄笑いを浮かべた。
「オレはもう覚悟を決めたぞぉー……」
「そんなにイヤな事でも待ってるの?」
「まぁな……リオン、用事が済むまでここら辺でブラブラしてろ、30分位で戻る」
「ホントっ? やったぁ!!」
 実のところ、あっちこっちを見て周りたくてウズウズしていたボクは小躍りして駆け出そうとした。のだけど、えり首を慌てて掴まれて引き戻される。
「待て待て待て、くれぐれも目立つ行動はするなよ。いつディアが襲ってくるとも限らないからな」
 そ、そうだった。元々それが目的でルアンに来たんだっけ。あ、いや決して忘れてたワケじゃないよっ
 2,3回釘を刺してから、ようやくイヅキは路地裏に消えていく。残されたボクは少しだけ首をひねって考えた。ディアは「首都で待ってる」とだけしか言わなかったケド。一体、どこに隠れているんだろう……?

「着イテシマッタ」
 何故かカタコトで発言したオレはある建物の前に腕を組んで佇んでいた。
 一見、柔道場。しかし横に有る看板には『おいでませ』としか書いていない。そして全体的に近寄りがたいオーラが噴出していて、道行く人も目を背けるそんな場所だ。
「ますます怪しさに磨きが掛かって来たなぁ、入るか」
 なんだか誤解されそうな看板を横目に覚悟を決めて、のれん(なんでこんな物が掛かってるかも謎だが)をくぐる。
「…………」
 しかし、入ったはいいが人気が無い。
「? 留守か?」
 ヒュッ!
「!!」
 突然後ろに殺気を感じ、反射的に鞘で受け止める。そのままこちらを押しつぶそうとする何かを思いっきり跳ね除けた。
 吹き飛び受身を取った人物は、掃除をしていないらしいホコリの中からゆっくりと立ち上がるとこう話しかけてきた。
「相変わらずいいカンしてんなぁ、イヅキさんよ」
「そういうアンタも相変わらずだなノザ、客を倒してどーする」
 そう、この不意打ちの犯人こそが、この店の主人だった。見上げる巨体に、チョビヒゲ、ハゲ頭にハチマキをした店のオヤジは豪快に笑った。
「あんな一撃、気付かないようなヤツの剣なんざ研げるかってんだ! ガハハハハッ!!」
 その答えにあきれながら問い掛ける。
「そんなんで食って行けんのか? 客を選んでて」
「気にするな、半分道楽でやってんだ」
「なるほど」
 中に進んだオレは、改めて店内を見回す。店内は2階建てになっていて、1階が売り場、2階が工房。そして店の裏手には実際に武器を触って試せる練習場があるはずだ。
「相変わらずあっちこっちの武器を集めて作ってるのか」
「おうよ、俺のライフワークだからな」
 タルの中からダガーを引っ張り出し軽く振ってみる。相変わらずその外見からは想像ができないほどに繊細な武器を作っているようだ。
「で、今回はどうした」
 ここでようやく本題に入る。布に包んだままの剣を取り出し、ノザからは少し離れたテーブルにトンと置く。
「研ぎを頼む、後微調整もだな。握り手をもう少し長くして――」
「おぅよ、任せとけ……って」
(げっ!)
 一番まずいタイミングで、包んでいた布がベロッと開き、隠しておいた刀身が見えてしまった。こぼれた刃をバッチリ確認したノザの、低〜い声が地を這うように店内に響く。ま、まずい……。
「お前、この刃こぼれは……」
 入口にダッシュするが時すでに遅し。気づけば頭をガッと掴まれヘッドロックを掛けられていた。
「いっ、いでででで!! 離せコラ! たこオヤジ!!」
「てめぇーあんな名剣、刃こぼれさせるなんていい度胸してんじゃねぇか……」
 次第にしまっていく腕に、首のあたりからミリミリといやな音が聞こえてくる。最後の抵抗とばかりに、オレはめいっぱい叫んだ。
「だからここは嫌だったんだぁぁぁ!!」
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