短文

□めるびん―あなたの想い届けます―
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そよそよと風が吹き、春うららかな太陽がさんさんと降り注ぐそんなある日です。

 ブルン ブルルン ブルルルルプスンッ

時折おかしな音をたてながらも、そのスクーターによく似た乗り物は草原を駆け抜けて行きました。
車輪の代わりに小さな噴射口のついた『モルダー』は、広い面積を持つこの地方では重要な移動手段のひとつです。

「うわわっ」

とつぜんモルダーは『ガタガタッ』と不安になるようなゆれ方をしました。
乗っていた人物は暴れるハンドルを慌ててまっすぐに戻してから、ふぅっとため息をつきます。

「ずいぶんとオンボロだな…大破しても知らんぞ」
「まだ乗れる!」

少し低めの声と、少し高めの声が、大きなエンジン音の合間でやりとりを交わします。
その声からすると、大きな車体にしがみつく様に乗っているのは、意外な事に女の子のようでした。
小柄な体には少々不釣り合いな赤い大きな帽子をかぶり、肩までの茶色の髪は風にはためいています。

一方、どこからか聞こえる見えない声の主の方はと言えば、呆れたような声で女の子へと説教を始めようとした所でした。

「やれやれ…初仕事からこれじゃ先が思いやられる…大体お前はだな――」
「ちゃんと掴まってないと危ないよっ」

 バンッ

「ぎゃっ」
「ほら」

小さな石にでも乗り上げたのか、モルダーは勢いよく跳び跳ねました。
その拍子に、女の子が斜めがけにしていたカバンから小さな黒猫がポーンと飛び出してしまいます。

「落ち…落ちる! 飛ばされる!」

黒猫は必死になってモルダーの後ろの部分に爪を立てて掴まりますが、今にも飛んでいってしまいそうでした。
なにせ女の子は周りの景色がかすむほどスピードを出していたのですから。

「もー、人の言うこと聞かないからだよ アルト」

どうやら先ほどから不満を言っていたのは、彼だったようです。
アルトと呼んだ黒猫の首根っこを掴んで、女の子はようやく停車しました。

「メルぅ! ホント何とかしてくれっ 俺は配達のたびに死に掛けるのはゴメンだ!」
「そんなこと言ったってなぁ…」
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