短文

□その時の話-蘇りし記憶-(ig短編)
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「ねぇ、アンタさ…」
小高い丘の上で一段高い所に腰かけていたキサラギは不意に話しかけてきた。
「何だ?」
「今年で108だったかしら?」
「それがどうした」
赤い夕陽に照らされ紅い着物が反射する。歳の話は好きじゃない、どうせいつもの事だからまたからかわれるのだろう
しかし以外な事にキサラギは穏やかな顔で興味深げに聞いてきただけだった
「凄いわよねぇ、私の何倍生きてるのかしら?
それだけ生きてたら、さぞかし世の中の素晴らしい宝とか美しい物とか見て来たのでしょう?」
「まぁな」
そして同じくらいに醜くて汚い物も見てきた。
手持ちぶさたに草をちぎっては風に流していた俺はポツリと言葉をこぼした。
「俺は時々お前が羨ましくなる」
「あら、めずらしいわね」
カラカラと笑う顔を見て思う。
俺はこういった表情をどれだけ見て来たのだろう
「…エクス?」
「飽きてるのかもしれないな、何もかも」
自嘲気味に口の端を吊り上げ、視線をそらす。
正直生きているのがつまらなくなってきたのだろう。多少面白い事があってもそれは何時か経験した事で…
「これだけ長く生きてるとな、全てが変化の無い事に思えてくるんだ」
10年、20年、30年前…『誰か』にこう言う話をした気がした。もう顔も定かでは無いが
人はそれをデジャヴと呼ぶ
「お前はまだ若い、見る事 触れる事全てが新鮮だろ?」
当然人を愛しても俺より先に死んで逝く。虚しいだけだと悟った一周期目。もう恋はしないと決めた

途切れない いつまでも終わりの見えない毎日。
いったい何百年過ぎたなら寿命が来る?
百年過ぎては不死鳥のようにしつこく蘇る俺の血族。もう…飽きたんだよ
「私はアンタの一族が羨ましいわ」
「!?」
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