――裏庭
『くそっ…!』
「どうした?こんなものか?」
『さ、斎藤さん…強すぎ』
木刀と木刀がぶつかり合う。近くの縁側では土方さんと総司さんが俺達の事をお茶を飲みながら見ている。
俺が斎藤さんと戦い、俺の力を見せなくてはならない。戦ってみてはいるが斎藤さん息一つ乱れていない。俺なんか息上がりすぎてもうバテてるっつうの!
「総司、お前等が見たのは確かだったんだろうな?」
「本当ですってば。光星君、あの時凄い強かったんですから」
「でもな。今の秋月を見ると弱過ぎじゃねぇか」
「変ですねー」
丸聞こえですよ、お二人さん。俺の目の前の人が強すぎなんです!斎藤さんの攻撃を交わしながら心の中でツッコミをいれる。一瞬の隙を斎藤さんは見逃さなかった。
――カラン、カラン!
『……ッ!』
斎藤さんに木刀を弾かされ木刀が転がっていく。糸が切れたようにその場に膝をつく。汗が地面に落ち渇いた土を濡らす。
「勝負あったな」
「あらら」
「斎藤。こんな弱い奴を仲間にする事は出来ねぇ」
「…しかし」
「秋月、てめぇは屋敷で大人しく留守番だ」
険しい顔で俺に言う土方さん。無理もない。俺は斎藤さんに手も足も出なかったんだから。ぎゅっと手に力が篭る。
「なら土方さん。最後のチャンスに刀で勝負してみたらいかがです?」
「馬鹿言うんじゃねぇ。刀でやっても同じだろうが」
「いや、分かりませんよ?刀の方が本当の力出るかもしれないでしょ?」
「全くおめぇは。…斎藤と秋月。お前等に任せる」
俺に手ぬぐいを差し出す斎藤さん。顔を上げ斎藤さんの顔を見ると心配しているのか不安そうな顔をしていた。
『ありがとうございます』
「副長はあー言っているがどうする?俺は止めても構わない」
『最後のチャンスか。…斎藤さん手合わせお願い出来ますか?』
「ああ…」
斎藤さんは俺がやるって言うのを分かっていたのか口元に笑みを浮かべた。
総司さんが俺が使っていた刀を部屋から持ってきてくれた。鞘から刀を抜く。すると刀がドクンと鼓動を打つ。なんだ?この刀。斎藤さんを前にして刀を構る。
真っ直ぐ斎藤さんを見ようとするが斎藤さんの姿が掠れて見える。刀の鼓動が俺の頭や心臓に響き、意識が飛びそうになる。
「土方さん気付きました?」
「ああ。あいつ、刀を構えた瞬間…空気が変わったな」
「何か起きそうですね」
光星の様子をじっと見つめる二人。四人しか居ないこの空間は静寂に包まれた。
「はぁっ!」
『………』
薄れ行く意識の中、斎藤さんの刀と自分の刀がぶつかり合う。木刀で戦っていた時が嘘の様にまともに斎藤さんと戦っているではないか。
そして…。
斎藤さんの刀が俺の刀をすり抜け、目の前に振り落とされる光景がスローで映し出される。
―やられるっ!
誰もがそう思った瞬間…。
急激に体が熱くなり、気付いた時には俺の刀が斎藤さんの喉スレスレの所で止まっていた。
「そこまでっ!」
土方さんの声が裏庭に響き渡る。
一体…俺は何をした?
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