「光星ー!早くしろよー」
『ああ。今行くー』
いつも通りの日常。朝が来たら目が覚めて歯を磨いて母さんの朝ごはんを食べる。そしていつも俺の家の下で待っていてくれる友人。
それが当たり前だった。今日は隣を歩く友人の顔がぼやけて見えない。視力低下したのか?そういえば母さんや父さんの顔もぼやけて見えた。
変わらぬ道を二人で歩いているとまたあの石垣の階段を見付けた。
『なぁ。こんな所に階段なんてあったけ?』
「はぁ?何言ってるんだよ。お前頭おかしくなったの?ここいらなんて土手ばっかじゃん。階段なんてあるわけねぇじゃん」
『そんなわけな…』
……!?
さっきまで話していた友人が俺の隣に居ない。どうして?辺りをきょろきょろと見る。だが、やっぱり誰も居ない。それに今まで歩いて来た道が霧がかかったように先が見えない。
気付くと蝶が俺の回りを飛んでいる。その蝶はひらひらと階段の先まで飛んで行ってしまった。俺も後を追い掛ける。階段を登り上がると広い場所に出た。ここも霧がかかっている。そのせいで視界が悪い。
「血だ…お前の血をくれ」
いきなり声がしたから驚いた。警戒しながら声がした方を見ていると、木の影から白髪の男達が俺の方に向かって刀を振り回して襲い掛かって来るではないか。
無防備な俺は確実にやられると思った。覚悟を決め目を閉じようとした瞬間。辺りが目を開けていられない程まばゆい光りに包まれた。恐る恐る目を開けてみると俺の手には蝶の装飾が成された刀が握られていた。その剣先には真っ赤な血が付いている。俺の手にも沢山付いていた。
そういえばさっきの男達は?と視線を下に向けた。俺の目に映ったのものは。
……っ!!
『うわぁぁあああ!』
―ガバッ!
『はぁ…はぁ』
……夢?
いきなり起き上がったせいで頭がくらくらする。寝汗を掻いたのか服が濡れていた。
「あっ!光星君、目が覚めたんだ」
ん?誰だ?この声。冴えない頭で声の主が誰か探す。聞いたような…誰だったけ?
『あの…すみません。誰ですか?』
そう俺が言うと障子を開けて入って来る人物。
「忘れちゃった?僕、沖田総司だよ。今日は君の監視役なんだ」
おきたそうじ?オキタソウジ?…沖田総司!?
『そ、そうだ!沖田さんでした』
今日はあの羽織りを着ていないが、あの時見たまんまの美青年だ。
『えーと?監視役?』
「そう。君がいつの間にか居なくなってたら大変だからね。まぁ逃げ出した時は僕が殺しちゃうけどね」
『…ははは』
なにこの人。こんなキャラなの?目が笑ってない所が恐いんですけど。
「なんてね。喉渇いたでしょ?」
『(冗談に聞こえねぇ…)はい。…あの…沖田さん』
「ん?」
『俺を運んでくれたのは沖田さん達でよね?』
「そうだよ。君、あの時倒れて大変だったんだよ。一君と抱えてここまで連れて来たんだから」
『す、すみません!あの時はお世話になりました』
「いいよいいよ。はい、水飲んで」
『ありがとうございます』
沖田さんから差し出された水を飲みほした。汗を掻いていたせいか水が凄く美味く感じた。
ふと自分の姿に目をやった。ん?これは寝間着だよな。それに沖田さんの格好も俺の時代には滅多に見られない服装だ。
「光星君?どうかした?」
『俺、どの位寝てたんですか?』
「丸三日は寝てたよ」
『三日!?』
「そうだよ。余程体が疲れてたんだろうね」
『沖田さん…あともう一つ質問していいですか?』
「いいよ」
俺は沖田さんを真っすぐ見て口を開いた。
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