最遊記
□桜の樹の下で
1ページ/1ページ
ハラハラと桜が舞い落ちる。
その光景を見たら誰もが感嘆の声を漏らすだろ
う。
「(綺麗・・・)」
私は桜の甘い香りに眠気を誘われ、瞼を閉じようとした。
「てめえ、こんなところにいやがったか。捜したぞ!」
目の前に現れたのは金糸の髪が綺麗な金蝉だった。
「(ああ、金蝉か・・・)」
仕事をサボってたのがバレたのだろう。
目の前で眉間に皺を寄せ、怖い顔をしている金蝉をシカトして、また夢の世界へ旅立とうとした。
「おい、シカトしてんじゃねえよ」
さらに眉間に皺を寄せ、ズンズンと近づいてきた。
「あ、いたの?」
「てめえ・・・」
今度は怒りマークが顔に現れた。だから金蝉は見てて飽きない。
「こんな処で寝てんじゃねえよ。帰るぞ。まだ仕事が残ってんだ」
「え〜」
どうせろくに読まないで判子押すだけのくせに・・・。
金蝉は未だに眉間に凄い皺。
「・・・分かったよ。ん、」
「・・・何だよ、その手は」
そのまま金蝉のいいなりになるのもつまらないから、起こしてもらうことにした。
「え?起こしてくれるんじゃないの?」
「・・・・・・・・・自分で起きろ」
直ぐに不機嫌になった金蝉。それでも起きない私に痺れを切らしたのか、頭をガシガシと掻いて、私の手を取ってくれた。
「ほらよ」
「ん、ありが、っ」
その時、強い風が桜の樹を揺らし、花弁をさらっていった。
「わ〜今の風凄かったね、金、蝉・・・」
「ああ、珍しいな」
嗚呼、なんて綺麗なんだろう。
風は桜の花びらを空に舞いあげ、金蝉の髪をなびかせた。
何となく、抱きつきたくなった。金蝉、怒るかな・・・?
まあ、そんなことは私に関係ない。私は立ち上がり、金蝉に抱きついた。
何処にも行かないように。
風に飛ばされないように。
ギュッと、抱き締めた。
「!!! な、何だ!?離せこのバカ!!」
顔が真っ赤。でも可愛いなんて言ったら怒るだろうな・・・。
金蝉はさっきから何も言わない私にまた痺れを切らしたのか、暴れだした。
怒る金蝉もたまに優しくなる金蝉も綺麗に笑う金蝉も寝顔が意外に可愛い金蝉も全部大好きで、全部が愛おしい。
「・・・金蝉、」
「・・・何だよ。てかいい加減離せ」
動きを止めた金蝉。
何故、抱き締めてくれないんだろう・・・。
「・・・・金蝉、」
「ああ?」
何時もと違う私がおかしいと思ったのか、私が金蝉を抱き締める腕にもっと力を込めたからか、そっと、壊れ物を扱うように私のことを抱き締めてくれた。
そんな不器用で優しい金蝉をますます好きになった。
「好きだよ」
「・・・・・・・・・」
無言。金蝉何も反応なし。
「・・・・プッ」
「てめぇ・・・」
きっと顔は真っ赤なんだろうな。
私はまた金蝉を抱き締める腕に力を込めた。
すると、金蝉もギュッと、私を抱き締めてくれた。
「・・・俺も、好きだ」
嗚呼、金蝉は綺麗だね。
また風が桜の花びらと淡い想いをのせて青い青い空へ飛んでいった。