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□学怖
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最悪だ。なんでもっと早くに気付かなかったんだろう。
僕は溜息をつくと、がくりと項垂れた。
鞄の中に入れたと思っていたノートがないのだ。明日提出しなければならない
化学のプリントが挟まれているというのに。時計を見れば、丁度短い針が11時の
ところで止まっていた。外はもう既に真っ暗闇だ。

「仕方ない…」

重い腰を起こすと、僕は懐中電灯を取った。






夜の学校はとても不気味で、おばけ屋敷のようにも見える。

さっさとノートを取って帰ろう。

大股で少し早歩きで、廊下を進む。いつもは長く感じない学校の廊下は
先が真っ暗でとても長く感じた。



がらがら
教室のドアを開けば、なんだか僕の知っている教室ではないような気がした。
真っ暗で、いつも賑やかな教室がこんなにも静かなのだ。まあ、こんな時間なのだから
当たり前なのだが。

急いで自分の席まで行くと、案の定机の中にお目当てのノートはあった。
一応ノートの中を確認すると、ちゃんとプリントも挟まってあり、僕はほっと胸を
撫で下ろした。

「!?」

その時、ふと誰かの視線を感じて後ろを振り返った。

「うわっ…!」

そこには髪の長い女子生徒が、しゃがみこんだ僕を見下ろしていたのだ。
僕は思わず驚いて声をあげてしまったが、よく見てみれば見たことのある顔がそこにはあった。

「あなた…坂上君?」

「なんだ、岩下さんか…」

「なんだとはなによ」

少し苛ついた顔を見せた岩下さんがそこにはいた。
僕はほっとしたような溜息をつくと、立ち上がった。

「ていうか…なんでこんな時間に岩下さんが?」

「忘れ物よ。明日提出しなくちゃいけないノートを取りにきたのよ」

「あ、岩下さんもですか?実は僕も忘れ物で…」

「あらそう、奇遇ね」






無事ノートを手にし、校門を出ると、じゃあと手を振り僕に背を向けようとする岩下さんに
僕は、あ、と情けない声を思わずだしてしまった。

「…なにかしら?」

呼びとめられて怪訝そうな顔をする岩下さんに僕は思わず言おうとした言葉を飲みこんでしまった。

家まで送りますよ。と。

「あの、えっと…」

たじろぐ僕に岩下さんは無言で僕を見つめる。(睨んでいると言ってもおかしくない。)

「えと、女子が一人で夜道を歩くのは危険かな、と思ったので…えーと…」

すると少し驚いたような顔をした岩下さん。そしてこう言った。

「あら、送って行ってくれるのかしら?」

少しどきりとした心臓を隠すように、僕は慌てて言った。

「はい!そうです!」

「あら、それはどうもありがとう」

暗闇でよく分からなかったが、岩下さんが微笑んだような気がして
僕は思わず下を俯いた。

「…どういたしまして」

夜でよかったと、僕は思った。きっと僕の顔は赤くなっているだろうから。










岩下さんが好きです。
坂上も好きです。あと荒井も好きです。
皆好きです。

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