book*akb 2
□甘えん坊再発日1
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──2014年、11月
「懐かしい、‥この空気」
成田空港から一歩外に出て、久しぶりに故郷の地を踏む。
普遍的に曇っている上海の空では殆ど見なかった太陽が気持ちのいい秋晴れを演出していた。
金木犀の匂いもする。
やっぱり、四季を感じるには日本が最高だな。なんて考えていると、ポケットのiPhoneが振動した。
「喂?‥‥あっ、才加。ただいま、今帰ってきた」
ダウンのジッパーをあげて、ボストンバッグを背負いなおしたわたしは、電話をしながらマネージャーの車に乗り込む。
才加と優子が明日、おかえりパーティーをしてくれるらしい。
まあどうせまた、才加の家で飲んだくれるだけになりそうだけれど。
あっちに引っ越してからは息つく間もなく忙しくて、結局一度も日本に戻っては来られなかった。
二人に会うのも一年ぶりである。
しかしわたしには、それよりも、もっとずっと会いたい人がいる。
マンションまで車を飛ばしてもらった。
バッグのサイドポケットから鍵を取り出して、オートロックのドアを開ける。
予想通り、きみはまだ帰っていない。
電気をつけながら部屋の匂いをいっぱいに吸い込んで、荷物を下ろした。
「変わってない‥」
部屋は変わっていなかった。
CDラックに新しいディスクが何枚か増えたくらい。
きみが帰るまでにはまだ時間がある。
わたしは料理を作って待つことにした。