book*akb 2
□縛り愛
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「まさかこの歳になってセーラー服着るなんて、思ってなかったよね」
ウェーブのかかった茶髪を翻して、あなたが笑った。
今日、わたしよりも一足先にクランクアップを迎えて、なぜか激しく赤を主張する花束を貰ったあなたと二人、ロケ現場の学校を歩いている。
「そうだね」
廊下が寒かったから、着崩していたスカジャンをきちんと羽織り直した。
メイクのせいかもしれないけれど、この衣装のとき、あなたはカメラが回っていなくても「ラッパッパ部長の優子さん」の顔になる。いつもより、少し凛々しくて大人っぽい。
「あ、ねぇ。ラッパッパの部室行っていい?写真とりたいし」
「あー、うん。いいよ」
部室での撮影は今日の数カットでもう全て終了していて、あとはセットを崩すだけらしい。長い撮影だったから、確かに名残惜しかった。わたしも写真をとってブログにでも載せようかと思い、あなたに着いていくことにした。
「にゃんにゃん、ここ、乗って?」
『部長様専用』となっている一人掛けの椅子にどっかりと腰掛けたあなたは、自分の膝を指差して、「ここ、ここ」とイタズラっぽく笑った。
「やだよ、陽菜重たいもん」
「部長命令〜」
「もぉー、意味わかんないし」
「早く、早く」
仕方なくあなたの膝に乗ると、
「ちがうよにゃんにゃん、こっち向いて。向き合って座るの」
と、腰を持って身体ごと座り直させらる。あなたにまたがる格好になった。
「って‥何この体勢、恥ずかしいんだけど」
両手を肩において顔を見ると、上目遣いで見つめてきた。その無垢な笑顔が可愛くて、照れてしまいそうになったから、ほっぺを軽くつねってやった。
「へへ。にゃんにゃん、可愛い」
そう言ってあなたは、両手でわたしの腰をぐっと引き付けた。すると当然、あなたの顔がわたしの胸にあたる。
「陽菜、いい匂いする」
くんくん匂いをかぎながら頬ずりをしてきた。
なんか、子供みたい。
「ちょ、優ちゃん‥誰か来たらどうするの」
「んー?来ないよ」
静かに目を閉じてわたしの胸に耳を当てながら、あなたは応える。
「でも‥」
「こうしていたい」
「もう‥ばか」
あぁ、きっと聞こえちゃってるんだろうな、心臓の音。
そりゃあ、わたしだってくっついていたいけれど。
場所が場所だし、衣装もそのままだし。
「陽菜‥」
でもダメだ。その声で名前を呼ばれるとどうしようもなくなるのは、惚れた弱みなのだろうか。