book*akb 2
□政権交代 前編
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人間は実に厄介で、贅沢な生き物である。
悩みが消えればまた新たな悩みが生まれ、常に無いものをねだり、求める。
今自分までもがその渦中にあるわけなのだが、少なからず「恋をした」という事実が、そうなってしまう理由の裏づけであるように思えてくるのだ――――。
「あー、うまい」
店員さんのおすすめらしい、何とかっていう有名なお酒を一気に飲み干した優子ちゃんが唸った。さすがはオジサンである。
珍しく予定が合ったので、仕事終わりに二人で食事に行く運びになった。前から相談にのってもらいたかったからちょうどいいな、と思い、「奢りますから」と誘って、店内に京都っぽいオブジェや桜の造木がある純和風の居酒屋について来てもらった。
「で、悩みというのは?」
「いや、悩みってほどのものじゃないんだけど‥」
頼れる先輩であり、友人であり、仲間である優子ちゃんは仕事も恋愛も上手くこなしているように見える。
「優子ちゃんは、恋愛のほう、上手くいってますか?」
「へ?‥うーん」
箸の先を口に入れながら、優子ちゃんの視線が一瞬右上に逸れた。思考中の顔である。
「こじはるさんと付き合って長いよね?」
「まぁね」
一瞬にこっと笑って、サラダと揚げ物に手を伸ばした。
「ってことはもう、‥あの、あれですよね?」
「あれって?」
「‥いくところまでいってます、よね?」
口いっぱいに野菜をほおばった優子ちゃんの視線の先が、料理の皿からわたしにシフトした。
「‥いってます、よねぇ?」
ドキドキ‥
「ふっ、ゆきりんからそんな話されるとは思わなかったわ」
サラダを飲み込んだ優子ちゃんは、けらけらと、可愛らしく笑いながら言った。
「はぐらかさないでくださいよー」
「あはは、うん。回数は多くないかもしれないけど、それなりに営んでますよ〜えへへ」
少し頬を紅潮させて、ニヤニヤしながら言った。もう酔っているのだろうか。ていうか、「営む」っていう言い方するか?普通。
「それで、ここからが本題なんですけど‥」
「ふむふむ」
「優子ちゃんって、‥その‥せめるほう、ですよ、ね?」
「そうだよ?」
うわ、さらりと言ったよこの人。
「こじはるさんって、どんな感じなんですか、そういうとき」
好奇心に任せて聞いてみた。わたしも顔が赤くなりそうだ。
「小嶋さん?んー、最初は恥ずかしがるんだけど、盛り上がってくると自分から求めてくるよ。けっこう激しく」
「う、おー‥マジですか」
「この前私が仕事で疲れて帰ってきたときもさ、『ねぇ、今日はしないの?』って上目遣いで聞いてきたんだよ。ヤバいだろ」
「や、やばいですね‥」
脳内には悶々とエロティックな妄想が浮かんでしまう。
「で、ゆきりんたちは?」
そうなのだ。
いつもクールに優子ちゃんの求愛を受け流すこじはるさんが、二人きりになるとメロメロに甘えて‥‥みたいな妄想を膨らませるために、この話を振ったわけではないのだ。