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□白衣とセーラー服 3
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あぁ、なんだ。
そういうことか。
あなたがわたしを、ふらなかった理由。
曖昧な返事で、はぐらかしてきた理由。
今、やっとわかった。
あなたは、わたしの卒業を待っていてくれたのだ。
そういう所は、決して1日たりとも妥協しない。
そのあたりが、しっかり者のあなたらしい。
長い抱擁がとかれると、今度はあなたがかすかに涙をうかべていた。
「先生、泣かないで」
「‥泣いてない」
「いや、その嘘は無理があると思う」
ふっと二人で吹き出して笑った。
そのとき、下校時間を知らせるチャイムが鳴った。
絶妙なタイミングだった。
チャイムと言っても、この17時のだけは「夕焼け小焼けでひがくれて〜」という曲が流れることになっている。曲名はわすれたけれど、童謡だ。
それに促されて、二人並んで帰ることにした。
外は西日が眩しい。
どうしてわたしを好きになったの?
いつから好きだったの?
聞きたいことはたくさんあったけど、やめにした。
楽しみはとっておこう。
わたしの心は、何かあたたかい感情で満たされていた。
「なに、ニヤニヤしてるの」
あなたに聞かれて、わたしは初めて自分が笑顔を浮かべていたことに気がつく。
「幸せだなあ、って」
「うん」
「先生も幸せ?」
「えー‥あー、うん」
あなたは照れ屋だ。
わたしはバス、あなたは徒歩で帰るからバス停のところで携帯のアドレスを交換して、わかれることにした。
バスが来た。わたしが乗り込もうとしたとき、あなたが口をあけた。
「あ、あのさ」
「ん?なに、先生」
「先生‥じゃなくて、名前で呼んでよ、これからはさ」
今度は目をそむけずに、あなたが言う。
わたしはバスのステップをひとつ登っていたから、いつもとは逆で、あなたの方が小さい。
だから、あなたは自然と上目遣いになった。
正直に言おう、そのときのあなたは究極にかわいかった。
「‥うん、わかった」
にやけてしまいそうなのを必死にこらえて言った。
いや、言い終わらないうちにバスのドアが閉まった。
発車オーライ。
見えなくなるまで手を振って、後ろから二番目の席に落ち着いたわたしは、バスの走行音が大きいのを良いことに、声にだして練習してみた。
「は、る、な。陽菜、陽菜‥陽菜」
やっぱり、にやけてしまった。
窓からは満開の桜が見えた。
いちばんはじめに、鬱陶しいと言ったことを訂正させていただきたい。
春よ、ありがとう。
fin
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