book*akb

□hero
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あ、なんかやばいかも。

そう思ったときには遅かった。
派手に横転して、数秒後には意識を手放す。

その日わたしは、朝から熱を出していたのだ。
無理して仕事にきたのが間違いだったことは、自明の理である。



発熱⇒仕事⇒無理しすぎ⇒横転⇒気絶

ばかばかしいくらいに
ベタなお決まりコースだ。


が、申し訳ないけれども
もう少しつきあっていただきたい。




ふわふわと遠のく意識の中で、あれは夢だろうか‥

佐江ちゃん、あなたに背負われた。

「にゃ、にゃんにゃん?大丈夫?」

口調が焦りを帯びている。


大丈夫。大丈夫。そう答えたかったけれど、声にはならなかった。


なんか、あったかい‥
あなたの匂いがする‥


わたしの意識は、またどこかへ行ってしまった。







「ん‥‥」


目を覚まして最初に目に入ったのは、見慣れた天井だった。

いつの間にかわたしは自室のベッドに寝かされていた。


カチ、カチと、時計の音がやけに気になる。

頭がいたい。



すぅすぅと規則正しい寝息に気がついて
ふと視線を左にずらすとそこに、あなたがいた。


漆黒のショートヘアを少し乱して、
わたしの左手を握りながら突っ伏していたあなたに、目が奪われる。



全ての状況を飲み込むのに時間はかからなかった。


あぁ、夢じゃなかったんだ、あれ。
ここまで、運んでくれたんだ‥

ずっと、見ててくれたんだ。




そんなふうに意識すると、とたんに鼓動が早くなる。
顔も赤くなっていたはずだ。


正直にいうと、
もう、ほとんど惚れていた。


暫くして、むにゃむにゃとあなたの口が動いた。


「‥にゃんにゃんは‥さえが、守る‥‥」


寝言だった。


一緒で潤みそうになる瞳。





「‥‥‥なんだそれ‥。ほんとに惚れてしまうだろう。ばーか‥」


わざとつっぱねるように言って、
自分にうそをついた。


あなたが、あまりにも
格好よかったから。

本気に、なっちゃうから‥。





過去の凡例は、やはり時として無意味なものとなる。


今までのことは、対して役に立たないと思った方がよい。

いきなり惚れてしまいそうになることもあるのだ。そしてまた、その逆も然りである。




あなたにお礼を言いたかったけれど、

もう少し。もう少しだけ、ヒーローの寝顔を堪能させていただくことにした。




fin




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