歌書物

□通り雨
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突然の通り雨に左近と三成は近くの神社で雨宿りをしていた。

「ついてませんな」

「まったくだ」

三成はいつもより倍に不機嫌な顔をして雨を眺めている。雨に濡れた赤茶の髪がぺたりと頬に張り付いている。
今となっては見慣れた三成の横顔を見て、左近は初めて会った頃を思い出す。最初はこんな戦とかけ離れた顔付き、体格を持つ三成に皮肉めいた言葉を言ったものだった。
しかし、時が経つにつれ三成の不器用さや優しさ、真っ直ぐな秀吉への忠誠心に心を打たれ、やがて恋心を抱いた。



左近は雨に目を向ける。まだ雨は降るだろう。
そっと手を伸ばし三成の白い手を握る。三成は一瞬驚き、みるみる顔をしかめていった。

「何のつもりだ」

「いいじゃないですか。このまま手持ちぶさたも何ですから、止むまでこうしていましょうよ」

左近がおどけた調子で言えば、面倒くさそうに好きにしろと言って黙りこんでしまった。
できればもう少しだけ雨が降ってくれればと思う。




三成がこうして手を繋いでくれることなどなかなかない。城の中では執務に集中しているし、外出しても人目を気にして繋がせてくれない。
その度、左近は寂しく思う。
三成と言う恋人ができてからは、長年続いていた手当たり次第に女を抱くこともなくなった。気持ちのない相手を抱くほどつまらないものはないと悟り、三成一筋となったが、やはり構われないのは寂しい。


まあ嫌われてはいないことだけはわかっているからいいのだが。

「そう言えば、もうそろそろ幸村と兼続が遊びに来ると文に書いてあった」

「そうですか。賑やかになりますね」

「兼続はうるさいだけだがな」

そう言って微笑む三成に左近は少しだけ胸が痛んだ。
生きにくいと言われている三成を大切に扱う人はたくさんいる。
幸村や兼続、秀吉やねね、口は悪いが清正や正則だって三成の身を案じている。自分だけが三成を独占するということができないもどかしさに左近は顔を歪めると、三成が下から覗きこんできた。

「どうした、具合でも悪いのか?」

「あ、いえ、考え事をしていただけですよ」
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