歌書物
□金魚
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何年かぶりに夏祭りへとやって来た。
横には正則がワイワイと一人で騒いでおり、その姿を微笑ましそうに秀吉様とおねね様が見ている。
ただ一人、ここに足りない。
昔、想いを伝えられなかったアイツが……
ざわめく祭りの中、俺は思い出にふけった。
「おい、それ……」
「おねね様が着ていけと五月蝿くてかなわんからな」
不機嫌そうに言う三成は浴衣を来て現れた。
赤色の浴衣は三成によく似合っていた。
「全く、女じゃあるまいし浴衣など着る必要はないではないか。現にお前は普段着だ」
「まぁいいじゃねえか。おねね様のご好意だ」
そう言えば、恨めしそうに俺を見て三成は不貞腐れた顔で祭りへと向かった。
正則が風邪を引き、秀吉様とおねね様が看病するから二人で祭りに行ってこいと言うので、俺たちはそれならまた今度と首を横にふった。しかし、おねね様に言いくるめられてしまい、二人で行くことになった。
清正は心中、喜んでいたが三成は面倒だというように顔をずっとしかめている。
せっかくの浴衣姿だ。笑ってくれたらと思う。
「待て、はぐれるぞ」
「俺は子供ではない」
可愛らしくない返事がくる。
この人混みではお互い、いつ見失うかわかったものではない。そう思った矢先、三成の姿が消えた。
「三成!?」
思わず手を伸ばすが、その手は空を切る。
「どうした?」
下から声がしたので見下ろせば、しゃがみこんで金魚を見ている三成がいた。
ほっとした俺は伸ばしていた腕を引っ込めた。